フリーランス・事業者間取引適正化等法「特定受託事業者」(フリーランス)とは
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【5分で納得コラム】今回のテーマは<フリーランス・事業者間取引適正化等法「特定受託事業者」(フリーランス)とは>です。
内容
フリーランス・事業者間取引適正化等法「特定受託事業者」(フリーランス)とは
1. 「特定受託事業者」などの定義
フリーランスが事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、2024年11月1日から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されています。このため、フリーランスと取引をしている事業者は当該法への対応が必要ですが、当該法への対応にあたっては、誰に、何を求めているかについて適切に理解するため、まずは用語の確認が必要になります。
フリーランス・事業者間取引適正化等法で使用されている用語のうち、受託者である「特定受託事業者」「特定受託業務従事者」、委託者(発注者)である「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」の定義は、それぞれ次のとおりです。
■受託者
①特定受託事業者
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者で、次の(ア)又は(イ)に該当するものをいいます。法律上で“フリーランス”という用語は使用されていませんが、これが、当該法において “フリーランス” に位置付けられているものになります。
(ア)個人で、従業員を使用しないもの
(イ)法人で、一の代表者以外に他の役員がなく、従業員を使用しないもの
なお、ここでいう「従業員」とは、次の(ⅰ)かつ(ⅱ)に該当するもの(同等の派遣労働者を受け入れている場合は、派遣先とは雇用関係にありませんが、当該者も対象に含みます。)をいいます。
(ⅰ)1週間の所定労働時間が20時間以上
(ⅱ)継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者
よって、例えば、個人事業主で、1週間の所定労働時間が20時間未満のアルバイトを複数名使用していたとしても、当該法上の「従業員」を使用していることにはならず、特定受託事業者(フリーランス)に該当し得ますし、個人事業主で、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用されることが見込まれる労働者を1人使用している場合は、仮にフリーランスと呼ばれていたとしても、当該法における特定受託事業者(フリーランス)には該当しません。
また、正社員として勤務している者が、副業で個人事業主として従業員を使用せず他の事業者から業務委託契約に基づき業務を受託している場合は、他の事業者から受託している業務を行う範囲においては特定受託事業者(フリーランス)に該当し得ます。
②特定受託業務従事者
「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である①(ア)における「個人事業主」又は①(イ)における「法人の代表者」をいいます。
■委託者(発注者)
③業務委託事業者
「業務委託事業者」とは、“特定受託事業者”に業務委託をする事業者をいいます。よって、“特定受託事業者”以外の事業者に業務委託をする事業者は、当該法でいう「業務委託事業者」には該当しません。
また、従業員を使用しない個人が業務委託をする場合なども「業務委託事業者」に該当し得ます。④特定業務委託事業者
「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当するものをいいます。なお、従業員の考え方は①と同様です。
(ア)個人で、従業員を使用するもの
(イ)法人で、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
2. 「③業務委託事業者」の対応
「③業務委託事業者」に対応が求められている事項は、次のとおりです。
書面等による取引条件の明示
特定受託事業者に業務委託をした場合は、内容が定められないことにつき正当な理由がある場合を除き、直ちに、次の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。
- ◎業務委託事業者・特定受託事業者の名称
- ◎業務委託をすることについて合意した日
- ◎給付・役務の内容
- ◎給付・役務提供の期日
- ◎給付・役務提供の場所
- ◎報酬の額・支払期日
- ◎(検査を行う場合)検査完了日
- ◎(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する事項 等
なお、明示方法は業務委託事業者が選択することができますが、電磁的方法により明示した場合で、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、特定受託事業者の求めに応じて電磁的方法により明示した場合などの一部の例外を除き、遅滞なく、書面を交付しなければなりません。
報復措置の禁止
特定受託事業者が業務委託事業者の法違反行為を公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣に申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはなりません。
3. 「④特定業務委託事業者」の対応
「④特定業務委託事業者」に対応が求められている事項は、「2.「③業務委託事業者」の対応」に加えて、次のとおりです。なお、一部については、業務委託が一定期間以上である場合に対応が求められています。
報酬支払期日の設定・期日内の支払
発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、また、期日内に報酬を支払わなければなりません。
ただし、再委託の場合は、必要事項を明示した上で、例外的に元の委託支払期日から30日以内のできる限り短い期間内に、支払期日を定めることができます。募集情報の的確な表示
広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を掲載する際に、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはなりません。また、内容を正確かつ最新のものに保たなければなりません。
ハラスメント対策に係る体制整備
特定受託業務従事者に対し、業務委託に関して行われるハラスメント行為に係る相談に応じ、適切に対応するための必要な体制整備等の措置を講じなければなりません。
特定受託業務従事者がハラスメントに関する相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該特定受託業務従事者(法人の代表者の場合は法人)に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはなりません。
禁止行為(業務委託が1ヵ月以上の期間である場合)
次の5項目の行為をしてはなりません。
- ◎受領拒否(特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、発注した物品等の受領を拒むこと)
- ◎報酬減額(特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、あらかじめ定めた報酬を減額すること)
- ◎返品(特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、受け取った物を返品すること)
- ◎買いたたき(類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること)
- ◎購入・利用強制(委託した物品等の品質を維持改善するためなどの正当な理由がないのに、特定業務委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
次の2項目の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはなりません。
- ◎不当な経済上の利益の提供要請(特定受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること)
- ◎不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること)
妊娠、出産、育児又は介護に対する配慮(業務委託が6ヵ月以上の期間である場合)
特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(法人の場合は法人の代表者)が妊娠、出産、育児又は介護と両立しつ業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の状況に応じた必要な配慮をしなければなりません。
なお、業務委託が6ヵ月未満の期間である場合は努力義務になっています。
解除等の予告(業務委託が6ヵ月以上の期間である場合)
契約を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。また、予告の日から解除日までに特定受託事業者から請求があった場合には、原則としてその理由の開示を行わなければなりません。
フリーランス・事業者間取引適正化等法において対応すべき事項の中には、“労働者” に近い取扱いもありますので、法令の詳細を確認した上で、対応状況の確認が必要です。
なお、形式的には請負契約や業務委託契約であっても、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合には、フリーランス・事業者間取引適正化等法は適用されず、労働基準法等が適用されますので注意が必要です。また、下請法(下請代金支払遅延等防止法)との関係についても整理が必要でしょう。
執筆陣紹介
- 岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
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食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。