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タレントマネジメントの現実解・後編

2016年8月16日

前編ではタレントマネジメントの現実解として、タレントマネジメント市場の鎮静化の原因となる「異なる3つのタレントマネジメントの定義」を、人事担当者の声をもとに紹介しました。後編では「人事部門が人事データを活用できていると言える条件」という観点に視点を変えて「タレントマネジメントの現実解」に触れたいと思います。



1. 人事データが活用できていると言える5つの条件

「タレントマネジメントの現実解・前編」では、タレントマネジメントの解釈は立場によって異なるということから、経営者・現場管理者・人事部門それぞれが求める3つのタレントマネジメントの定義があること、いずれかの定義で取り組むにしても、三者が同じ方向に向かっていることが重要であることをご紹介しました。「タレントマネジメントの現実解・後編」では視点を変えて、どうすれば会社としてタレントマネジメントを上手く推進していけるか?の問に対する、多くの人事担当者者の回答から「タレントマネジメントの現実解」をご紹介します。回答の傾向に共通していることは、経営者・現場管理者が納得する形であること、人事部門が無理なく運用できることに重点が置かれており、タレントマネジメントに対するニーズの齟齬を埋めるための条件とも言えます。これは、「あれが欲しい」「これを出してくれ」といった様々なレポートの要望に応えるため、人事部がいろいろな資料を予め用意しているにもかかわらず、依頼者は十分に資料を探すこともなく「人事部はデータ活用ができていない、タレントマネジメントになっていない」と批判的な意見を持つケースが多いことが背景にあるようです。尚、今回の回答は一般的な意見として整理するために、人事システムと並行してエクセルを多用している状況を前提としています。

2. 条件1「しなくていい依頼をさせないこと」

「しなくていい依頼をさせない」とは、既に共有済みの情報に対して、経営者や現場管理者から情報提供依頼が入る場合を指します。この場合、事前の資料作成や依頼自体も無駄な行為になる上に、依頼者は欲しい情報がすぐに取り出せないことをストレスに感じ、依頼をするたびに「人事データが活用されていない」と不満を口にします。また、その度に、レポーティングツールなどのシステム化を検討する声もあがりますが、投資対効果の観点からシステム化の検討も思うようには進まないようです。例えば、勤怠システムの管理者画面で部下の時間外勤務の状況を把握できるようになっていても、現場の管理者は、十分にシステムを確認することなく、アラート機能や対象者のリストアップ機能を新たに求めることがあるため、多くの人事担当者は、システム化の問題ではなく、運用する側の意識の問題と捉えているためです。そこで、この問題を確実に解決するには、システム化よりも運用ルールの明確化の方が即効的で有効な解決策になります。「しなくていい依頼をさせない」ためには、どんなレポート形式であれば見やすいのか?どこで共有すれば探しやすいか?といったことを、依頼する側と提供する側で突き詰め、運用にきっちり落とし込む方が、現実的な解決策という見方が大半のようです。

■問題:既に共有済みの資料提供を求められる
■対策:システム化よりも運用ルールで根本解決

3.条件2「重複した作業が散在していないこと」

エクセルは統計情報をまとめ資料化するのに便利なツールですが、一方で、いろんな部署で、いろんな人がエクセルを活用して似た様な資料を作成しているケースが多く見受けられます。多くの人事担当者はこのような状況が、会社全体でみれば大きな無駄であると感じています。例えば、人事部門が定例的に作成している統計資料の存在を知らずに、膨大な手間と時間をかけて、他部署で同様の資料を作成したり、重複して作成された資料の数値が、人事部門が作成したレポートの数値と不一致なこともあり、そのような資料作成業務に手間と時間をかけるのは、無駄でしかないということです。このような状態は、どんな資料がどこにあるのか、誰が作成しているのか、ライブラリ化することで問題を解消することができます。ただし、エクセルベースで運用する場合には、注意点があります。資料を作成する人のエクセルのスキルや意識によっては、限定的な利用のためだけに作成するため、せっかく作った資料も、二次加工や他部署への転用ができず、結局は似た様な資料を別の人が作成することになります。また、エクセルは誰でも扱える半面、関数やマクロを壊してしまい、資料としての信頼性を損なう恐れもあるため、計算式をこわさないようセルを保護したり、資料作成担当者が変わった場合でも、後任者が扱えるように、資料作成のルールを定めるなど、エクセルのスキルとデータ活用への意識が一定でないことへの配慮も必要です。

■問題:似た様な資料を複数人が手間暇かけて作成している
■対策:統計資料等のライブラリ化、エクセルスキル・データ活用への意識が一定でないことへの配慮

4.条件3「過去歴データを統合化しておくこと」

人事情報をもとにしたレポートを作成する際に、過去歴を用いるケースが多くあります。例えば、昇格・昇給時に該当者の経歴を経営者がチェックしやすいように、賃金、業績、賞罰などの情報を時系列で確認できるような工夫が求められます。ただし、エクセルベースで膨大な人事データを管理していると、例えば、過去2年分は簡単に遡れても、それ以前の資料はフォーマット(管理項目やレイアウトなど)が違うために、都度その場しのぎの加工作業をすることが多くあるよです。また、人事システムで管理している情報であっても、過去歴のデータ移行が不十分であれば、同じように資料の加工作業は発生します。スピーディで柔軟な対応をするためには、過去歴を含めた人事情報の統合化が必須と言えますが、多忙な人事部門でそのためのリソースの確保は容易にはできません。統合化を非現実的な取り組みにならないようにするには、中長期的であっても、会社として重要なタスクに位置づけ、経営者の理解のもと計画的に取り組むことが重要です。そもそも、人事データの分散の一番の要因が過去歴なのが一般的ですので、データ統合化を先送りせずに、着実に前進させることが人事データ活用の第一歩と言えるのではないでしょうか。

■問題:過去歴を要する資料作成にかかる手間と時間
■対策:時間がかかっても過去歴は移行しておくこと

5.条件4「その数値の根拠を示せるようにすること」

レポート作成は、統計結果だけでなく、その数値の根拠も明確に押さえておくことが重要です。労基署や税務署の監査ではすぐに確証を求められますので、当然ながら、作成した資料にある数値の根拠をすぐに示せるようにしておかなくてはなりません。ここで問題となるのが、資料作成業務の属人化です。一人の担当者に資料作成を任せていると、経験や勘が反映され、その数値にいたる計算式などのプロセスが見えなくなりがちです。結果的に作成者本人でさえも数値の根拠を明確に示せなくなり、レポートとしての信頼性を損なうことがよくあるようです。ただし、こういった資料作成の業務の属人化は簡単には解消できません。解決策としては「エクセルやアクセスを多用したとしても、計算式をきっちり組むことに留意した資料作成をすること」です。資料を作成した人でなくても、計算式を追うことで根拠を示せるようにしておけば、実際には作成担当者が固定されても、致命的な属人化の状態は避けられます。条件2同様に、資料作成をルール化し、なにか問題があれば、他の担当者でも根拠を示せるようしておくことで「属人化対策」とするのが現実的な解決策になります。

■問題:属人化しているため、資料作成者でないと、結果にいたる根拠を示せない
■対策:計算式をきっちりくみ上げるなど、経験値に頼らない資料作成で属人化を回避

6.条件5「データの信頼性が担保されていること」

条件3、4に絡むことですが、レポートの提出者は、数値に対する信頼性を担保しておく必要があります。エクセルベースで資料作成をする場合によくあることですが、関数やマクロが壊れていても、第三者がチェックをしないと間違いに気付けないことがあります。ただし、複雑で膨大な人事統計情報を第三者がチェックするとなれば、大きな手間と時間を要することになり、結果的にレポート作成業務はスピーディで柔軟な対応とはなりません。そこで、全件チェックとはいかなくても、各レポートごとにランダムチェックをするための「チェック用のレポート」も並行して作成していれば、新たに大きな負担をかけることもありませんので、信頼性の担保の実現方法としては現実的と言えます。元となるデータは一元化された上で、チェック用のレポートを別の計算式で作成するのが理想的ですが、どうしても一元化が難しい場合は、あえて別の元データからチェック項目を絞った簡易的なチェック用レポートを作成するのも良いと思われます。例えば、人事システムのマスタと勤怠システムのマスタをぶつけてチェックするだけでも、どちらかに入力ミスや漏れがあることを気付けるように、情報の一元化が困難な場合は、それぞれの情報元からチェックする工夫をすれば良いのです。いずれにせよ、人事情報は従業員の給与に関わる大事な情報でもあり、間違いに気づくのが遅れれば、対処のための負担も大きくなります。また、人事・給与システムのチェックリストを活用する方法もありますが、タレントマネジメントの要素を含むレポートの場合は、人事・給与システムから出力できるチェックリストでは管理項目が足りず、十分にチェックができない場合が多いようです。結果的に一つの情報に頼らざるを得ず、間違いに気付けないことになりますので、簡易的であれ、チェック用のレポートを別に作成する運用が望ましいです。

■問題:レポートの数値の間違いに気付けない
■対策:簡易的であれチェック用のレポートも並行して作成する


以上が「人事部が人事データを活用できていると言える5つの条件」です。実際に該当業務に携わる人事担当者の意見を整理すると、人事部門がやるべきことは「①情報を集める ②情報を加工する ③情報を配信する」といった実務的なものであり、経営者や現場管理者が納得する運用であることが現実的なタレントマネジメントであると言えるようです。また、この現実解に対して、タレントマネジメントシステムやBIツールなどのシステム導入には、経営者や現場がシステムを使いこなせないリスクを懸念する傾向にあります。更に、経営者や現場管理者が納得するタレントマネジメントは、運用で回避できる要素がまだまだ沢山あると考えてるようです。重要なことは、いかに無理なく無駄なく運用するか、その上で、先述した5つの条件を押さえることのようです。

最後に、クレオマーケティングではこのような人事部門の声をもとに、自由にレイアウト編集ができる人事台帳の検索・照会・出力機能で、人事情報の加工・公開のセルフ化を実現したり、人事統計情報のグラフを簡単に出力できるようにすることで、現行のエクセルベースのレポートを活かしつつ信頼性を担保するといった「タレントマネジメントの現実解」に応えています。人事給与システムを見直す際に参考にしていただければ幸いです。

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