【ナレッジセンター】
電子帳簿保存法~大手・中堅企業の取り組みを調査~

2016年9月6日

平成27年度税制改正から連年で大幅に要件緩和された電子帳簿保存法。特にスキャナ保存制度については、証憑書類の保存対象の拡大や電子署名の廃止、スキャナ装置の限定廃止などにより、経理部門のペーパーレス化の実現性が高まっている中、実際に各企業ではどこまで対応を考えているでしょうか。クレオマーケティングでは大手・中堅規模の民間企業に絞り、各社の取り組み状況について独自調査を行いました。今回はその調査結果をご紹介します。

1.従業員300人以上の大手・中堅企業77社を調査

今回の独自調査は、大手・中堅規模の企業を対象に、各企業の経理担当者様へアンケートによる記名式及び電話による質問形式で2016年7月~8月にかけて行いました。
制度改正に対する認知度や取り組み状況、期待値や見送る場合の要因などを確認することで、これまで伸び悩んでいた本制度が、今後どこまで定着しそうか、最新動向を押さえることを目的に調査を実施しています。

<調査項目>
・スキャナ保存制度の要件緩和に関する認知度
・本制度の今後の浸透予測
・現時点の取り組み状況
・検討を進めない理由
・電子化の対象範囲
・電子化による期待効果
・電子化の必須要件
・本制度に取り組む際の課題

<調査対象企業のプロフィール>
■業種
(製造業、サービス業、卸売・小売業他)
■従業員規模
■年商

2.要件緩和に対して詳しく理解している企業は2%、約6割は多少知っている程度に

今回の要件緩和の内容について、理解度を確認したところ「ある程度知っている」「多少知っている」企業が約6割、「詳しく知っている」と回答した企業は2%にとどまる結果となりました(図1「大手・中堅企業における要件緩和の認知度」)。この結果から、まだ多くの企業が本格的な制度対応に乗り出していないことが伺えます。業種別に認知度合の違いを見ると、大きな差はないものの、卸売・小売業やサービス業など多店舗展開をする業種で認知度は高いようです。

図1「大手・中堅企業における要件緩和の認知度」

3. 本制度の本格的な定着化には時間を要するとみている

今回の要件緩和を機に、本制度に取り組む企業は今後増えていくと思うか?という質問に対しては「やや増えると思う」「どちらとも言えない」が全体の約7割を占めました(図2「電子帳簿保存法が浸透する見通し」)。認知度の結果から見ても、各企業の取り組みは、まだまだ消極的ということが読み取れます。

図2「電子帳簿保存法が浸透する見通し」

4.現況は「検討中と様子見」が全体の6割、「既に運用している」が2割程度に

電子帳簿保存法の取り組み状況を確認したところ、「検討中」が31%「様子見」が29%と、全体の6割が将来に向けた意識はもちつつも、直近で取り組もうとしていないことがわかりました(図3「電子帳簿保存法の取り組み状況」)。業種別に傾向をみると、「既に取り組んでいる」の比率が高いのはサービス業、「検討中」の比率が高いのは製造業、「様子見」は運輸業という結果になっています。また、人数規模でみると従業員規模が少なくなるにつれて「検討中」の傾向が高いようです。

図3「電子帳簿保存法の取り組み状況」

5.「環境の整備」が検討の足かせに

電子帳簿保存法への取り組みを「検討していない」理由の中で、最も多いのが「環境が整っていない」で33%、次いで「自社の運用に合っていない」が25%でした(図4「電子帳簿保存法対応を検討しない理由」)。ワークフローシステムや会計システムの大幅な見直しや、承認までの期間が短いことによる実運用ベースと制度ベースの乖離などがネックになっているようです。

図4「電子帳簿保存法対応を検討しない理由」

主な理由は以下のとおりです。

<環境が整っていない>
・社内申請等のシステム、会計システム等の大規模なシステム入替が伴う為
・電子化するためのサーバーが新たに必要だから
・環境整備の為の要因不足
<自社の運用に合わない>
・業務フローの見直しが必要
・入力期間の制限が厳しい
・紙による運用が主流で、電子化への変更が現実的でないため
・紙を残したいという経理部門の意向があるため
・税理士に相談したところ、自社ではメリットが少ないと言われたため
<かえって非効率になる>
・結果的に電子データと紙の二重管理になるため
・スキャンの手間と時間がかかるため
・税務関係で電子化が出来ないものもあり、完全なペーパーレスにならないため

6.電子化の対象範囲は帳簿類・証憑書類で全体の8割に

「既に運用している」「準備中」「検討中」と回答した企業に電子化に取り組む際の対象範囲を確認したところ、総勘定元帳や仕訳帳といった帳簿類が41%で、領収書や契約書といった証憑書類が39%となり、若干ではありますが、証憑書類より帳簿類が上回る結果となりました(図5「電子化の対象範囲」)。

図5「電子化の対象範囲」

7.電子化に期待する効果は「ペーパーレス」と「業務効率化」、検討は現場主導の傾向

電子化による期待効果で最も多いのが「ペーパーレス」で次いで「業務効率化」「経費削減」という結果になりました(図6「電子帳簿保存法適用による期待効果」)。反対に「内部統制の強化」や「セキュリティ」「ガバナンスの徹底」といった会社の方針に基づく回答が低いことから、現時点では電子帳簿保存法への対応は現場主導で検討されている傾向があると伺えます。

図6「電子帳簿保存法適用による期待効果」

8.取り組む上で「文書管理との連動」が必須要件に

電子帳簿保存法に取り組む上で、必須要件に上がっているものとして最も多かったのが「会計システムと文書管理の連動」「基幹システムと文書管理の連動」で、文書管理を必須要件とする企業が全体の56.3%となりました(図7「取り組む上での必須要件」)。反対にモバイルによる経費精算のシステム化が最も少なく全体の12.6%に留まっており、今回の要件緩和で期待されている経費精算のペーパーレス化よりも文書管理への関心が高いことがわかりました。

図7「取り組む上での必須要件」

9.取り組む上での課題は「スキャナによる電子化の手間」と「運用の見直し」

最後に、電子帳簿保存法に取り組む上で課題になっていることを確認したところ、「スキャナによる電子化の手間」「運用の見直し」「インフラ整備」「社員の意識改革」といった点があげられており、今後の本格運用に向けて、対策が迫られるポイントとなることがわかります。

回答内容 業種 従業員数 年商
紙をスキャンして電子化する手間がどの位のものなのかが分からないこと。 卸売・小売業 300~499人 200~499億円
スキャナで電子化する手間が増える部分をどうするか。 卸売・小売業 500~999人 200~499億円
業務効率と費用対効果、また、業務に関するルール作りの負担。 卸売・小売業 3000人以上 1000億円以上
今よりも手間がかかる様に思われること。 卸売・小売業 300~499人 500~999億円
証憑類の使い回し防止が確実におこなえるのか不安。 卸売・小売業 500~999人 1000億円以上
経営者に必要と思ってもらえるか、理解してもらえるかが課題。 卸売・小売業 1000~2999人 1000億円以上
グループ会社が対応しており、そこの方針に準ずるため、特に問題なし。 卸売・小売業 500~999人 1000億円以上
領収書の電子化について、社員全員の意識改革が必要なこと。 建設業 500~999人 200~499億円
自社開発の会計ソフトで運営しているが、今回を機に、市販ソフトへの切り替えを検討している。その際、どこまで電子化するかの線引きが課題。 建設業 500~999人 199億円以下
従来のものと比べた時のコストや安全性調査の手間。 建設業 500~999人 199億円以下
自社内だけなら良いが、他社(業者など)で請求書などの証憑類を紙でないと対応できない所があるので、そこが課題。 建設業 500~999人 500~999億円
複合機利用ルールの見直し、基幹システムと文書管理の連動に時間がかかること。 建設業 1000~2999人 1000億円以上
実際やってみないと、どんな問題があるか分からいなこと。 建設業 500~999人 199億円以下
何日以内にスキャンするなどの要件をクリアできるかが課題。 サービス業 500~999人 199億円以下
扱う人のPCスキル(PC能力があればできる)。 サービス業 300~499人 199億円以下
既に電子帳簿保存は進んでいて、イントラネットで出来るようになっていて、課題に感じている事はない。 サービス業 300~499人 199億円以下
画像と紙をどう紐付けるか悩んでいる。1枚の画像が二重に処理されたりしないかが気がかり。 サービス業 500~999人 199億円以下
誰が運用するか、運用する人が大事になる。スマートフォンでの保存は数日以内という制約があり、現実的でない。 サービス業 1000~2999人 500~999億円
要件クリアするには厳しい点がある。請求書なら、どの仕分けと対になっているのかを明確にする必要がある。 サービス業 1000~2999人 500~999億円
スキャンの時間がかかること。 製造業 300~499人 199億円以下
インフラの整備。 製造業 300~499人 199億円以下
社内のルール作りが一番の課題。 製造業 500~999人 199億円以下
今は情報を集めている段階だが、内部システムの基準をしっかり決めないといけない事が課題である。 製造業 500~999人 500~999億円
証憑書類の電子化を検討中だが、社内にどう広めていくかが課題。 製造業 1000~2999人 500~999億円

10.今後、制度定着が進む鍵とは

今回の調査では、電子帳簿保存法の要件緩和が進みつつも、各企業の傾向は「将来に向けた検討状態にある」ということが読み取れました。今後、本格的に定着化が進む為には、現場主導の検討から「会社の方針として取り組む動き」や、「安価で大掛かりな環境整備を必要としない関連サービス」が求められているのかもしれません。電子帳簿保存法対応を検討する上で本調査結果が貴社の参考になれば幸いです。
※本調査結果はホワイトペーパーとして当サイトからもダウンロードが可能ですので、今後の検討に是非ご活用ください。

尚、私どもクレオマーケティングが提供する会計システム「ZeeM会計」でも、既に経費精算機能に画像添付機能を追加し、タイムスタンプサービスや文書管理システムとの連携を図ることで、電子帳簿保存法に対応した会計システムへと機能強化を進めています。これにより、会計システムを見直す際には、単なるシステムの入れ替えではなく、電子帳簿保存法対応を同時に検討していただき、「ペーパーレス」や「業務効率化」の効果を最大限に追求していただけるようにしています。併せて今後の参考にしていただければ幸いです。

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