【ナレッジセンター】
目標管理制度の形骸化はなぜ解消しない? 後編

2015年12月10日

2015121001 前編では、目標管理制度の現状として、従業員は自分の評価が正当でないため、モチベーションを下げているという、目標管理制度の形骸化の状況について、市場調査の結果から紹介しました。
後編では、その要因となる″評価者の怠慢“を改善するため、″実態を正しく把握するためのポイント“と″それによる期待効果”について解説します。



4.人事部門が行う評価者の運用チェックポイント

目標管理制度の形骸化を解消するには、運用の実態を正しく把握し、そこから正しく課題を抽出し、正しく対策を打つ、というステップを踏むことが必要であることを前編で述べました。後編ではこれらのステップを踏む上でのポイントと、それによる期待効果を解説します。

まず、運用の実態を正しく把握するポイントとしては、次の観点が求められます。

■人事部門が行う評価者の運用チェックポイント■
①計画的な運用ができているか
あらかじめ決められた期間中に、計画されたスケジュールで面談は行われているでしょうか。目標設定面談、中間面談、評価面談のそれぞれが、往々にして期限ぎりぎりになり、一日の中で短時間の面談を立て続けに行うケースがよくあります。例えば、目標設定面談の時間が十分に確保されてなければ、十分な話し合いがされず、評価者が目標を一方的に押し付けている可能性があります。ゆとりをもって、一人ひとりとじっくり話し合えるスケジュールで面談を行っているか、評価者ごとにチェックが必要です。

②合意形成ができているか
被評価者の納得度をチェックします。例えば、設定された目標に対して妥当性を感じているか?実現手段は現実的と感じているか?定量化できない定性的な目標設定を納得しているか?達成度に応じた評価基準を納得しているか?自己評価と評価者の評価結果のギャップは埋まったのか?など、被評価者が感じていることを目標設定面談・中間面談・評価面談が行われたタイミングでチェックすることが必要です。

③キャリアプランとの紐づけができているか
個人の目標をキャリアプランと紐づけられているかも重要です。人事部門がチェックするポイントとしては、目標の内容を精査するのではなく、被評価者本人がキャリアプランと紐づいていると感じているかどうかを確認します。当然ながら、チェックのタイミングは目標設定面談が行われた直後に、納得の有無を確認するという形が望ましいです。

④リカバリ策の指示ができているか
中間面談のタイミングで、目標に対する進捗度合いに応じたリカバリ策の指示が、あったかどうかをチェックします。指示の有無、リカバリ策の妥当性、リカバリ策に対する納得感の有無など、中間面談が行われた直後に被評価者に対して確認します。


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⑤目標の見直しをしたか
設定された目標の検証や見直しをしたかどうか、中間面談が行われた直後にチェックします。組織内のメンバーの増減に伴う役割分担の変更や、タスクの増減など、外部環境の変化に応じた見直しや、目標設定時と実際に業務を遂行して生じた難易度の見直しなどを、中間面談の中で話し合われたかどうかを確認します。

⑥今後の課題解決に向けた指導をしているか
評価面談を自己評価の確認程度で終わらせず、次期に向けた課題対策や能力開発に向けたアドバイス、そのために取り組むべきことなどの指示があったかどうかなどをチェックします。

他にも、設定した目標のマンネリ化や、達成レベルが判定しづらくないか、部下のチャレンジ意識を引き出せているか、結果に至るプロセスを軽視していないかなど、チェックポイントは様々です。それぞれの職種や役割に応じてチェックポイントを設定することが必要です。重要なことは、これらのチェックを評価者を介さず、人事部門が直接行うこと、後からチェックするのではなく、目標設定面談、中間面談、評価面談とそれぞれの面談が行われた直後に行うこと、これらのチェックを一過性の対策とするのではなく、継続性をもって取り組むことです。それが、正しく状態を把握することであり、正しい対策を適時に打てるようになり、強いては評価者に対して、正しく運用することの重要性を意識付けることにも繋がります。



5.形骸化対策に近道はない
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前述した①~⑤のチェックをすることで、評価者別の傾向がとらえられます。合意形成が不得意、面談を計画的にできない、目標設定シートの提出が遅れがち、設定した目標の見直しをしていないなど、チェックした情報をもとに各評価者ごとの弱みを抽出していきます。

次に、評価者別に整理したウィークポイントを一つひとつ原因分析をして、評価者ごとの改善策をプランニングします。注意しなければいけないのは、原因分析はチェックした情報の範囲内だけで行わず、様々な観点から仮説を立てて検証していく必要があります。例えば、合意形成の弱さが目立つ評価者であっても、評価スキルが低いのではなく、単に業務が忙しすぎて面談の時間を十分に確保できていないだけかもしれません。忙しさの原因は、業務量の問題ではなく、過度に部下に干渉・関与しすぎていて権限移譲が十分にできないだけかもしれません。このケースであれば、その評価者に対しては、合意形成の重要性を教えるのではなく、組織運営のためのマネジメント、タイムマネジメントなどの教育を先行した方が良いかもしれません。

このように、評価者の運用の実態を正しく把握することは、評価者別に適正な対策を導き出すことができ、目標管理制度の形骸化を課題の本質から改善することになるほか、効率的な管理者育成にも繋がる場合があります。

目標管理制度における形骸化対策では、評価者の運用改善は手間と時間がとてもかかるために、敬遠しがちです。しかし、いくら制度改定やシステム化を図っても評価者の意識が変わらなければ、目標管理制度は機能しません。つまり、制度改定やシステム化に労力とコスト、時間をいくら投じても、その対策は″評価者自身が自ら意識を変えるのを待つ“という受け身の策でしかないのです。 各社の環境や条件によって多少の違いはあると思われますが、一見、遠回りに見える評価者の運用改善が、形骸化している目標管理制度の課題の本質をとらえ、具体的に意識を変えさせる策を講じられる最短コースかもしれません。

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