【ナレッジセンター】
企業のマイナンバー制度対策~導入企画編~

2015年10月2日

個人番号通知が開始されたマイナンバー制度ですが、ここへきて収集方法の方針を再検討されている企業様が意外に多いようです。正式運用に切り出せない要因や、見切り発車をせざるを得ない状況、それに対する企業のマイナンバー担当者の意見などをご紹介します。

 
行政機関によって見解の違う“身元確認”

 番号収集を行う上で、最大のネックが“本人確認”です。特に身元確認については、税・社会保障で、確認条件の差異や不明確な点が有るため、未だ番号収集業務の運用方針を固められないという声は少なくありません。11月10日に公表された厚生労働省のホームページ(マイナンバー制度・雇用保険関係の“事業主による本人確認について”)によると、従業員の身元確認が成立する条件は国税庁の見解と同様とありますが、あくまでも“予定”としています。また、収集方法が“対面“と”オンライン“の場合には身元確認書類の省略ができるが、”郵送”では省略できないとあります。他にも、健康保険組合の見解は未だ明確になっていないなど、行政側のグレーゾーンが各企業の番号収集業務の運用設計の足かせになっているようです。

 具体的な例を挙げると、郵送方式をとる場合は、国税庁が認める”住所または生年月日をキーとして個人を特定する“という身元確認の成立条件は、厚生労働省側では認めていません。そのため、郵送方式の場合は従業員から身元確認書類を提出させる必要があり、集めた書類の物理的安全管理措置や組織的安全管理措置(保管庫の新設や管理、廃棄を見据えた目的外利用の排除)方法を決めてからでないと、番号収集に踏み切れません。

 また、扶養親族の身元確認書類を企業が管理することは不要(従業員が個人番号関係事務実施者として収集する場合)とありますが、後々確認することが必要になった場合に備えて、それを目的とした場合に限り保管をしても良いとなっているため、扶養親族の身元確認書類も提出させるべきか、判断に迷うことろです。

 このように、扶養親族の身元確認書類一つをとっても、どうすべきかは、各企業のマイナンバー導入担当者の判断に委ねられますが、今後の現場の業務負荷に大きく影響するため、番号通知が始まっても未だ運用方法を固めることができない状態が続いているようです。

 
運用設計見直しのリスクを抱えたまま、番号収集を見切り発車

 しかしながら、すでに運用方針を固め、番号収集を始めている企業もあります。従業員数が多い、拠点が多い、人の出入りが激しいといった特性を持っている企業では、一刻も早く収集を開始して、平成28年1月から安定運用ができる状態にする必要があるためです。

 マイナンバー制度導入担当者は、安全性と継続性に配慮し、なにを、いつまでに、どこまでやれば良いかを見極め、コストと現場の負担を必要最小限に抑えた運用設計を考えなくてはなりません。

 そこで問題となるのが、行政側のグレーゾーンが今後どうなるか予測を立て、運用設計をし、会社の承認を得て、見切り発車的に運用を開始しなくてはならないことです。例えば、10月14日に厚生労働省から労災保険に関するマイナンバーの取扱に関する情報が公表されました。それによると、個人番号を利用する労災保険手続については、企業側は番号法上の個人番号関係事務実施者とはならず、他制度の事務とは異なり、従業員などから個人番号を取得することはできないとあります。早期に番号収集の運用を開始した企業では、既に通知済みの個人番号の利用目的から、労災保険除外の訂正をしなくてはならないといった余計な手間や社内の混乱を招くような問題に繋がります。

 
メリハリのある導入計画を立て、現状で最善な運用設計をする

 実際に複数の企業のマイナンバー導入担当者から話を伺うと、後回しにできるものは後で考える、今後変更が見込まれる部分は運用規程やマニュアルを別紙にし、変更が発生しても改訂しやすくするといった工夫をされているようです。他には、番号収集フローが複数(対面、郵送、システム、ライン経由など)あると、変更が発生した際の修正の影響範囲が大きくなるため、収集フローを一つに絞り込み、イレギュラー対応が発生しないよう予め従業員に対する教育に注力するといった意見もあります。

 また、ライン経由の番号収集フローを止めて、本部一括で収集するシンプルなフローにすることで、個人番号を取扱う担当者への教育の手間や、運用上のリスク対策設計の手間を抑えるといった意見もあります。いずれも、今後の運用変更の余力を残すことで、見切り発車であっても最善の体制で運用を開始するといった考えです。

 既に番号通知も開始していますが、今からでも、番号収集フローのスリム化や従業員への再教育をする価値はありそうです。

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