公正なM&Aの在り方に関する指針の公表について
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1.はじめに
経済産業省は2019年6月28日に「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」を公表しました。本指針は、類型的に構造的な利益相反の問題と情報の非対称性の問題が存在するMBOおよび支配株主による従属会社の買収が対象とされているが、両取引類型に該当しないM&Aにおいても、一定程度の構造的な利益相反の問題や情報の非対称性の問題が存在する場合には、その問題の程度等に応じて本指針を参照することは、当該M&Aの公正さを担保することに資するとともに、その公正さについて一般株主や投資家等に対して説明責任を果たす際にも役立つものと考えられています。
2.原則と基本的視点
本指針では取引の前提に関する議論を踏まえて、M&Aにおいて尊重されるべき原則と公正な手続に関する基本的な視点を以下のように整理しています。
原則 第1原則 企業価値の向上 望ましいM&Aか否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべきである。 第2原則 公正な手続を通じた一般株主利益の確保 M&Aは、公正な手続きを通じて行われることにより、一般株主が享受すべき利益が確保されるべきである。 視点 視点1 取引条件の形成過程における独立当事者間取引と同視し得る状況の確保 対象会社においてM&Aの是非や取引条件の妥当性についての交渉および判断が行われる過程(以下「取引条件の形成過程」という。)において、M&A が相互に独立した当事者間で行われる場合と実質的に同視し得る状況、すなわち、構造的な利益相反の問題や情報の非対称性の問題に対応し、企業価値を高めつつ一般株主にとってできる限り有利な取引条件でM&Aが行われることを目指して合理的な努力が行われる状況を確保する。 視点2 一般株主による十分な情報に基づく適切な判断の機会の確保 MBO および支配株主による従属会社の買収においては、買収者と一般株主との間の情報の非対称性により、取引条件の妥当性等について一般株主による十分な情報に基づいた適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)が行われることが当然には期待しにくいことを踏まえて、一般株主に対して、適切な判断を行うために必要な情報を提供し、適切な判断を行う機会を確保する。 3.さいごに
現実のM&Aは個別性が高く、実際の形態は一様ではありませんが、本指針では上述した原則と基本的視点を踏まえて、M&Aにおいて一般に有効性が高いと考えられる典型的な措置が取り上げられ、その機能や望ましいプラクティスの在り方が提示されています。また我が国企業社会における公正なM&Aの在り方を提示するものとされていますので実務担当者は確認しておくべき指針といえます。
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- 仰星監査法人
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