2025年3月期の決算留意事項(開示関係)の概要

2025年4月10日
2025年3月期の決算留意事項(開示関係)の概要

【5分で納得コラム】今回は「2025年3月期の決算留意事項(開示関係)の概要」について解説します。

2025年3月期の決算留意事項(開示関係)の概要

1. はじめに

今回は、2025年3月期以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用となる、「重要な契約等の開示」及び「政策保有株式の開示拡大」の概要をご紹介いたします。

2. 重要な契約等の開示

従来「経営上の重要な契約等」という開示項目でしたが、典型的な契約上の契約以外の契約が十分になされてこなかったと考えられたため、「重要な契約等」に変更されました。
それとともに、2023年12月22日に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令」第2号様式(33)には、新たに3つの事項について「重要な契約」として開示することとなりました。
ただし、記載すべき事項の全部又は一部を届出書の他の箇所(例えば、財務諸表の注記等)において記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することが出来ます。

また、契約・合意の内容や取締役会における検討状況、財務上の特約の内容等の開示事項については、投資判断に対する重要性に応じて、投資者の理解を損なわない程度に要約して記載することも考えられるとされています(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という。)No.18)。

上記の「重要な契約」の有価証券報告書等への記載は、2025年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。ただし、施行日である2024年4月1日以前に締結された契約については、2025年3月31日以前に開始する事業年度に係る有価証券報告書等までは省略可能とされました。

3月決算会社であれば、2025年3月期に係る有価証券報告書では、2024年4月1日以前に締結された契約については、記載を省略できますが、2026年3月期以降に係る有価証券報告書では、2024年4月1日以前に締結された契約についても記載が必要となります。

(1)企業・株主間のガバナンスに関する合意

企業・株主間のガバナンスに関する合意
【開示が必要となる事項】
提出会社の株主(完全親会社を除く)と当該提出会社(提出会社が持株会社の場合は、その子会社を含む)の間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約を締結している場合(重要性の乏しいものを除く。)
(a)役員候補者指名権の合意
(b)議決権行使内容を拘束する合意
(c)事前承諾事項等に関する合意
【記載する内容】
・契約の概要(契約を締結した年月日、相手方の氏名又は名称及び住所、合意の内容)
・合意の目的
・取締役会における検討状況その他提出会社における合意に係る意思決定に至る過程
・合意が提出会社の企業統治に及ぼす影響
(影響を及ぼさないと考える場合には、その理由)

(2)企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
【開示が必要となる事項】
提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主)と当該提出会社との間で次に掲げる合意を含む契約を締結している場合(重要性の乏しいものを除く。)
(a)保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意
(b)保有株式の買増しの禁止に関する合意
(c)株式の保有比率の維持の合意
(d)契約解消時の保有株式の売渡請求の合意
【記載する内容】
・契約の概要(契約を締結した年月日、相手方の氏名又は名称及び住所、合意の内容)
・合意の目的
・取締役会における検討状況その他提出会社における合意に係る意思決定に至る過程

(1)及び(2)について、口頭の合意であったとしても、当該合意が法的拘束力を有する場合には、開示の対象になると考えられています(「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」No.6)。

(3)ローン契約と社債に付される財務上の特約

ローン契約と社債に付される財務上の特約
【開示が必要となる事項】
提出会社又はその連結子会社が、財務上の特約の付された金銭消費貸借契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その金銭消費貸借契約に係る債務の期末残高又はその社債の期末残高が、最近連結会計年度の末日における連結純資産額の10%以上である場合
【記載する内容(金銭消費貸借契約)】
・連結子会社が金銭消費貸借契約の締結をしている場合には、当該連結子会社の名称、住所及び代表者の氏名
・金銭消費貸借契約の締結をし、又はこれらの特約が付された年月日
・金銭消費貸借契約の相手方の属性
・金銭消費貸借契約に係る債務の期末残高、弁済期限、債務に付された担保の内容
・これらの特約の内容

【記載する内容(社債)】
・連結子会社が社債の発行をしている場合には、当該連結子会社の名称、住所及び代表者の氏名
・社債の発行をし、又はこれらの特約が付された年月日
・社債の期末残高、償還期限、社債に付された担保の内容
・これらの特約の内容

なお、複数の金銭消費貸借契約又は複数の社債に同種の特約が付されている場合には、それらの期末残高を合算して判定します。

3. 政策保有株式の開示

令和5年度の有価証券報告書レビューにおいて、政策保有目的から純投資目的に区分変更した株式について、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているとの課題が識別されています。
そうした経緯を踏まえ、金融庁は、有価証券報告書等における「株式の保有状況」の開示に関連して、「企業内容等の開示に関する内閣府令」で以下の改正を行いました。

保有目的 純投資目的以外(政策保有目的)⇒純投資目的
期間 最近5事業年度(6箇月を1事業年度とする会社にあたっては10事業年度)
【記載する内容】
(a) 銘柄、株式数、貸借対照表計上額
(b) 保有目的を変更した事業年度
(c) 保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針

上記改正に併せて、「純投資目的」の定義が明示されることとなりました。
「企業内容等開示ガイドライン」によれば、「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいうとされています。そのため、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあることや、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式については、純投資目的で保有しているといえないとされています。


金融庁HP
・「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について
https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20231222-4/20231222.html

・「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(政策保有株式の開示)
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250131-2/20250131-2.html

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仰星監査法人

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