第10回 日本におけるFP&Aの現状

2024年11月14日
第10回 日本におけるFP&Aの現状

【5分で納得コラム】
今回のテーマは、「日本におけるFP&Aの現状」について解説します。

FP&Aは、企業の経営戦略や事業計画をサポートするために、財務データの分析と計画策定を行う機能です。従来の経理・財務業務から進化し、FP&Aはビジネスの戦略的意思決定を支援し、企業価値を最大化するために重要な役割を担います。近年、日本でもこのFP&Aの導入が広がりつつあり、多くの企業がその有効性を認識しています。

第10回 日本におけるFP&Aの現状

1. 日本におけるFP&Aの導入状況

(1)日本における従来のFP&A組織の特徴

1950年代にアメリカ式の事業部制とコントローラー制度を日本企業に導入する試みがありましたが、多くの企業ではライン組織やスタッフ組織の役割が明確でなかったため、FP&A組織が実務と乖離する懸念が生じました。その結果、財務会計機能は経理部に残され、本社に計画作成機能を担う経営企画部が設立されました。事業部では、事業部長とそのスタッフがコントローラーの役割を担う形となり、本社との分断が生じ、この状況は現在も多くの日本企業に残っています。

(2)日本における直近のFP&Aの導入状況

日本では、FP&Aはまだ比較的新しい概念ですが、特に外資系企業や大手企業を中心に導入が進んでいます。たとえば、資生堂やリクルート、味の素といった企業がFP&Aを導入し、財務データを戦略的に活用する体制を強化しています。これらの企業では、FP&Aが経営層の意思決定をサポートし、業績の向上や財務目標の達成に貢献しています。このように、日本の一部企業では、FP&Aを通じて、財務部門がビジネス全体のパフォーマンス向上に寄与することが期待されています。

一方で、FP&Aの導入が進む一方で、まだ多くの日本企業では、財務部門が従来の「会計・決算」業務にとどまり、経営への直接的な関与が限定的であるケースもあります。企業内の部門間連携が不十分な場合、FP&Aの真の価値が発揮されにくいという課題もあります。

イメージ

図 日本におけるFP&A導入の変遷

2. 日本におけるFP&A導入の課題

(1)組織文化や企業風土の違い

日本企業では、伝統的に経営判断がトップダウンで行われ、財務部門は経営の「補佐役」としての役割にとどまることが多くありました。このため、FP&Aのように、財務部門が積極的に経営戦略に関与する文化はまだ定着していない企業も少なくありません。

(2)FP&A人材の不足

FP&Aには高度な財務分析能力だけでなく、ビジネス全体を俯瞰する視野とコミュニケーション能力が求められます(第4回参照)。しかし、日本では、これらのスキルを持つ人材がまだ十分に育成されておらず、専門性を持ったFP&A人材の育成が急務とされています。

(3)データの活用

ビジネスのデジタル化が進む中、データ分析の重要性はますます高まっています。FP&Aは財務データだけでなく、営業データやマーケティングデータといった多様な情報を統合し、経営判断に必要な洞察を提供します。これにより、FP&Aの導入は財務部門の強化にとどまらず、全社的なデジタル変革の重要な要素と位置づけられています。FP&Aを効果的に機能させるためには、リアルタイムで財務データを分析できるシステムやツールが欠かせません。しかし、多くの日本企業では、依然として手作業や従来型のシステムに依存しており、そのためデータ分析のスピードや精度に課題が残っています。

3. 日本におけるFP&Aの今後の展望

日本では、FP&Aの導入が今後さらに進むと予測されています。デジタル化とAI活用が加速する中で、リアルタイムのデータ分析や予測分析が経営の重要ツールとなり、日本企業もFP&A機能の強化や人材育成が進むと考えられます。FP&Aの導入は財務部門の強化にとどまらず、経営改革を促進し、経営層や他部門との連携を強化することで、組織全体の効率性と業績向上を図ることが期待されています。
また、グローバル競争環境に対応するため、日本企業は経営の効率性や透明性向上を目指してFP&Aの導入を進め、財務データを戦略的に活用することで競争力を強化しようとしています。FP&A導入には、日本企業の文化や経営スタイルの変革と新たなスキルの習得が必要ですが、これを乗り越えることで柔軟でデータドリブンな経営が実現し、持続可能な成長と国際競争力の向上が期待されています。

執筆陣紹介

仰星コンサルティング株式会社

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