社会保険の定時決定とは
現物給与の取扱いは適切ですか?

2024年7月11日
社会保険の定時決定とは 現物給与の取扱いは適切ですか?

【5分で納得コラム】
今回は、「社会保険の定時決定」について解説します。

社会保険の定時決定 現物給与の取扱いは適切ですか?

1. 定時決定

「定時決定」とは、毎年1回、社会保険料や年金額の基礎となる「標準報酬月額」を決定する手続きで、適用事業所から7月10日までに提出される4月から6月に支払われた報酬(給与等)などが記載された「算定基礎届」に基づき、日本年金機構等が「標準報酬月額」を決定します。

定時決定に基づく「標準報酬月額」は、原則として当年9月から翌年8月までの各月に適用され、給与改定などがあって「随時改定」の対象に該当しない限り、1年間変わりません。よって、誤った「標準報酬月額」で決定されることがないよう、算定基礎届の作成は適切に行わなければなりません。

2. 報酬とは

算定基礎届に記載する「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの(ただし、臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものは除きます。)をいいます(健康保険法3条5項・厚生年金保険法3条1項3号)。なお、報酬には、毎月支払われる給与などの「金銭(通貨)で支給されるもの」だけでなく、通勤定期券や食事、住宅などの「現物で支給されるもの」も含まれ、それらをまとめると以下の表のとおりです。

金銭(通貨)で支給されるもの 現物で支給されるもの
報酬となるもの 基本給(月給•週給•日給等)、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、扶養手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金、年4回以上の賞与(※) 等 通勤定期券、回数券、食事、食券、社宅、寮、被服(勤務服でないもの)、自社製品 等
報酬とならないもの 大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年 3 回以下の賞与(※)等 制服、作業着(業務に要するもの)、見舞品、食事(本人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の 2/3 以上の場合) 等

(※)年3回以下支給される賞与は標準賞与額の対象になります。

算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和6年度)(日本年金機構)より

3. 社宅などの住宅の取扱い

「現物で支給されるもの」のひとつに住宅があります。よって、会社から提供された社宅や寮に入居している場合は、「現物で支給されるもの」としてその分を報酬に含めて算定する必要があります。具体的には、社宅等の広さ(居室用の室)に、都道府県ごとに厚生労働大臣が定めた価額を乗じて得た額を報酬として含めて算定します。

現物給与(住宅)=都道府県ごとに厚生労働大臣が定めた価額 × 社宅等の広さ(居室用の室)

例えば、東京都の事業所で勤務する者が6畳の社宅に入居している場合であれば、東京都の価額が適用され、令和6年度の東京都の厚生労働大臣が定めた価額は1畳あたり2,830円ですので、16,980円を現物で支給されるものとして報酬に含めて算定します。
※洋間など畳を敷いていない場合は、1.65㎡を1畳に換算して算出します。

例)現物給与(住宅)=2,830円×6畳=16,980円

なお、社宅料などとして本人から費用を徴収している場合は、本人が負担した分を差し引いた額を報酬に含めて算定します。

例)先の例で社宅料が10,000円の場合は、6,980円を現物で支給されるものとして報酬に含めて算定する
現物給与(住宅)=(2,830円×6畳)-10,000円=6,980円

また、社宅等の広さ(居室用の室)は、住宅の全部ではなく、居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接間、仏間、食事室など居住用の室を対象とし、玄関、キッチン、トイレ、浴室、廊下などの居住用ではない室は対象に含めません。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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