在宅勤務手当と割増基礎賃金の除外について

2024年5月23日
在宅勤務手当と割増基礎賃金の除外について

【5分で納得コラム】今回は、「在宅勤務手当と割増基礎賃金の除外」について解説します。

1. 割増基礎賃金

労働基準法では、時間外労働や休日労働をさせた場合に、使用者に割増賃金の支払いを義務付けており、割増賃金を支払う際の時間単価は、その労働が所定労働時間中に行われた場合に支払われる「1時間当たりの賃金額」に基づいて算定することとされています。

具体的には、例えば、月給の場合であれば、次の方法により算定した割増単価以上で計算された割増賃金を支払わなければなりません。

割増単価 = 割増賃金の基礎となる賃金(以下、割増基礎賃金)
       ÷ 1カ月の所定労働時間数 × 割増率
※当該時間数が月によって異なる場合は、1年間における1カ月平均所定労働時間数

なお、割増基礎賃金には、基本給だけでなく各種手当も含める必要がありますが、労働と直接的な関係が薄く個人的事情に基づいて支給されるなどの理由から、次の(1)~(7)のいずれかに該当する場合は、限定的に割増基礎賃金に含めない取り扱いが可能になっています。

ただし、家族手当は扶養家族の人数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当をいい、住宅手当は住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうなど、名称にかかわらず実質によって取り扱う必要があります。

【割増基礎賃金から除外できるもの】
(1)家族手当
(2)通勤手当
(3)別居手当
(4)子女教育手当
(5)住宅手当
(6)臨時に支払われた賃金
(7)1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

2. 在宅勤務手当の取扱い

通信費や光熱費などの在宅勤務に要する費用を補填するため、在宅勤務をする者に対して在宅勤務手当などとして手当が支払われる場合がありますが、この手当は割増基礎賃金に含める必要があるのでしょうか。

これについては、1.の「割増基礎賃金から除外できるもの」のいずれにも該当しないため、実費弁償として支払われる場合に該当しない限り、割増基礎賃金に含めなければならないと解釈されています。

ただし、実費弁償以外の在宅勤務手当も割増基礎賃金から除外できるものとして追加するよう要望があり、それを受けて規制改革実施計画(令和5年6月16日閣議決定)において「厚生労働省は、在宅勤務をする労働者に使用者から支給される、いわゆる在宅勤務手当について、割増賃金の算定基礎から除外することができる場合を明確化するため、在宅勤務手当のうちどのようなものであれば、合理的・客観的に計算された実費を弁償するもの等として、割増賃金の算定基礎から除外することが可能であるかについて検討し、必要な措置を講ずる。」こととされていました。

3. 割増基礎賃金から除外できる場合とは

規制改革実施計画を受けて、先月、通達「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」(令和6年4月5日基発0405第6号)が発出されました。

その中で、在宅勤務手当が実費弁償にあたる場合には割増基礎賃金に含める必要がないこと、また、実費弁償にあたる場合とは次の考え方によることが示されました。

  • ・労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要があること。
  • ・就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要があり、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要があること。
  • ・例えば、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月 5,000 円を渡切りで支給するもの)等は、実費弁償に該当せず、賃金に該当し、割増賃金の基礎に算入すべきものとなること。

また、上記の「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」として、次の3つの例が示されました。

例1 国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ (源泉所得税関係)」で示されている計算方法

例2 (例1) の一部を簡略化した計算方法
(通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)及び電気料金については、在宅勤務手当の支給対象となる労働者ごとに、手当の支給月からみて直近の過去複数月の各料金の金額及び当該複数月の暦日数並びに在宅勤務をした日数を用いて、業務のために使用した1ヵ月当たりの各料金の額を(例1)の例により計算する方法)

※ 在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、当該金額を実費弁償として一定期間継続して支給することが考えられる。なお、「直近の過去複数月」については、例えば、3ヵ月程度とすることが考えられる。

※「一定期間」については、最大で1年程度とし、「一定期間」経過後に改めて経過後に改めて同様の計算方法で在宅勤務手当の金額を改定することが考えられるが、電気料金等は季節による変動も想定されることから、労働者が実際に負担した労働者が実際に負担した費用と乖離が生じないよう適切な時期に改定することが望ましい。
ただし、この取扱いは、当該在宅勤務手当があくまで実費弁償として支給されることを前提とするものであることから、実費弁償にあたる考え方に照らし、常態として当該在宅勤務手当の額が実費の額を上回っているような場合には、当該上回った額については、賃金として割増基礎賃金に算入すべきものとなることに留意すること。

例3 実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法
(実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めた上で、当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を在宅勤務手当として支給する方法)

※「実費の額を上回らないよう1日当たりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定め」る方法として、通信費及び電気料金については、例えば、次のアからウまでの手順で定める方法が考えられる。

ア 当該企業の一定数の労働者について、国税庁FAQ問6から問8までの例により、1ヵ月当たりの「業務のために使用した基本使用料や通信料等」「業務のために使用した基本料金や電気使用料」をそれぞれ計算する。

イ アの計算により得られた額を、当該労働者が当該1ヵ月間に在宅勤務をした日数で除し、1日当たりの単価を計算する。

ウ 一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日当たりの単価のうち、最も額が低いものを、当該企業における在宅勤務手当の1日当たりの単価として定める。

なお、アの「一定数」については、当該単価を合理的・客観的に定めたと説明できる程度の人数を確保することが望ましい。
また、例えば、「一定数の労働者」を当該単価の額が高くなるよう恣意的に選んだ上で当該単価を定めることは、当該単価を合理的・客観的に定めるものとは認められず、当該単価を基に支給された在宅勤務手当も、実費弁償には該当しないこと。


いずれの例においても、在宅勤務手当を実費弁償にあたるものとして割増基礎賃金から除外するためには、一定の管理が必要になりそうです。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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