【2024年度版】電子申請が可能な本社一括届出手続きについて解説します

2024年3月28日
【2024年度版】電子申請が可能な本社一括届出手続きについて解説します

【5分で納得コラム】今回は、電子申請が可能な「本社一括届出」手続きについて解説します。

電子申請による本社一括届出。可能な手続きが増えています!

1. 届出は原則「事業場単位」

労働基準法における36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)などの労使協定や就業規則の届出については、「法人単位」ではなく「事業場単位」で実施する必要があります。

ここでいう「事業場」の考え方は、少し古いものですが労働安全衛生法に関する以下の通達で示されており、基本的には「場所的観念」によって決定されると解されています。

労働安全衛生法の施行について(昭和47年9月18日発基第91号)

事業場とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいう。

一の事業場であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とするものである。

しかし、同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることによってこの法律がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるものとする。たとえば、工場内の診療所、自動車販売会社に附属する自動車整備工場、学校に附置された給食場等はこれに該当する。

また、場所的に分散しているものであっても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として取り扱うものとする。

2. 本社一括届出が可能な手続き

支店や営業所などの複数の事業場を有する企業においても、原則として、36協定などの届出はそれぞれの事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して行う必要がありますが、一部の手続きについては、要件を満たす場合、本社の事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、本社以外の事業場の分もまとめて一括で届出を行うことができるようになっています。これを本社一括届出といいます。

本社一括届出が可能な手続きは、これまでは、就業規則の届出、36協定の届出及び1年単位の変形労働時間制の届出に限られていましたが、令和6年2月23日からは、これらに加えて、以下の届出も可能になりました。ただし、電子申請による届出の場合に限られます。

  • ・1カ月単位の変形労働時間制に関する協定
  • ・1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定
  • ・事業場外労働に関するみなし労働時間制に関する協定
  • ・専門業務型裁量労働制に関する協定
  • ・企画業務型裁量労働制に関する決議
  • ・企画業務型裁量労働制に関する定期報告

3. 本社一括届出が可能となる要件

本社一括届出は、本社の協定と本社以外の事業場の協定の内容が同一である場合に限って可能になります。この「内容が同一」とは、各協定において以下の内容が同じことをいいます。

対象協定 内容が同一である必要がある項目
1ヵ月単位の変形労働時間制
  • ・業務の種類
  • ・変形期間(起算日)
  • ・変形期間中の各日及び各週の労働時間並びに所定休日
  • ・協定の有効期間
  • ・労働時間が最も長い日の労働時間数(満18歳未満の者)
  • ・労働時間が最も長い週の労働時間数(満18歳未満の者)
  • ・使用者の職名及び氏名
1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • ・業務の種類
  • ・1週間の所定労働時間
  • ・変形労働時間制による期間
  • ・使用者の職名及び氏名
事業場外労働に関するみなし労働時間制
  • ・業務の種類
  • ・1日の所定労働時間
  • ・協定で定める時間
  • ・協定の有効期間
  • ・使用者の職名及び氏名
専門業務型裁量労働制に関する協定
  • ・法人番号
  • ・協定の有効期間
  • ・業務の種類
  • ・業務の内容
  • ・1日の所定労働時間
  • ・協定で定める1日のみなし労働時間
  • ・労働者の健康及び福祉を確保するために講ずる措置
  • ・労働者の労働時間の状況の把握方法
  • ・労働者からの苦情の処理に関して講ずる措置
  • ・対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないことについての協定の有無
  • ・労働者の同意を得なければならないこと及び同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことについての協定の有無
  • ・同意の撤回に関する手続
  • ・労働者の労働時間の状況並びに労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況、労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況並びに同意及びその撤回に関する労働者ごとの記録を協定の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存することについての協定の有無
  • ・使用者の職名及び氏名
企画業務型裁量労働制に関する決議
  • ・法人番号
  • ・決議の有効期間
  • ・業務の内容
  • ・労働者の範囲(職務経験年数、職能資格等)
  • ・決議で定める1日のみなし労働時間
  • ・労働者の健康及び福祉を確保するために講ずる措置
  • ・労働者の労働時間の状況の把握方法
  • ・労働者からの苦情の処理に関して講ずる措置
  • ・労働者の同意を得なければならないこと及び同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことについての決議の有無
  • ・同意の撤回に関する手続
  • ・対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更する場合にあっては、労使委員会に対し、当該変更内容について説明を行うことについての決議の有無
  • ・労働者の労働時間の状況並びに労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況、労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況並びに同意及びその撤回に関する労働者ごとの記録を決議の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存することについての決議の有無 ス 運営規程の有無 セ 運営規程についての委員会の同意の有無 ソ 使用者の職名及び氏名
企画業務型裁量労働制に関する定期報告
  • ・法人番号
  • ・報告期間
  • ・業務の内容
  • ・労働者の範囲
  • ・労働者の労働時間の状況の把握方法
  • ・使用者の職名及び氏名

複数の事業場がある企業において上記届出を行う場合は、要件を満たせば、事務手続きの簡素化が図れる本社一括届出の活用をおすすめします。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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