【裁量労働制】いつでも「撤回」が可能に
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【5分で納得コラム】今回は、裁量労働制の撤回について解説します。
【裁量労働制】いつでも「撤回」が可能に
1. 裁量労働制とは
研究開発やシステムエンジニアなどの専門的な業務については、仕事の進め方や時間配分などについて本人にまかせ、上司が具体的に指示することが馴染まない場合があります。また、本社部門の業務の中にも、事業計画・営業計画の策定や調査・分析など、上司が具体的に指示するのではなく、自らの知識や能力を活かして仕事を進めていくことができる業務があります。
これらの業務に従事した場合に、実際の労働時間にかかわらず、労使であらかじめ定めた時間労働したものとみなすことができる制度が「裁量労働制」です。前者の専門的な業務を対象とするものを「専門業務型裁量労働制」、後者の企画、立案、調査及び分析業務を対象とするものを「企画業務型裁量労働制」といいます。
2. いつでも「撤回」が可能に
以前のコラムでご紹介したとおり、2024年4月1日から「裁量労働制」に関する仕組みが一部変更になります。そのひとつが、制度適用について「撤回」が可能になる仕組みが導入されることです。
まずは、制度適用にあたり、対象者から個別に同意を得なければなりません。この同意の仕組みは、企画業務型裁量労働制では従来から求められていましたが、専門業務型裁量労働制でも2024年4月1日から新たに導入することが求められます。
そして、本人同意の上で適用した裁量労働制について、2024年4月1日からは、いつでも本人の申出により同意を「撤回」することができる仕組みを導入しなければなりません。
3. 「撤回」の申出があったら?
裁量労働制の適用に関する同意の「撤回」の申出があった場合は、裁量労働制の適用を継続することはできません。よって、この場合にどの労働時間制度が適用されることになるのかを明確にしておく必要があります。
また、「撤回」した場合でも、給与額は基本的には変わりません。仮に、裁量労働制適用を想定して給与額を高めに設定していた場合でも、その点が明確になっていなければ「撤回」後もその給与額が適用されることになります。よって、適用される労働時間制度に応じて給与額を異なるものとしたい場合は、来年3月までに、その点を明確にしておく必要があります。ただし、「撤回」したことによる不利益な取扱いは禁止されていますので注意が必要です。
裁量労働制適用事業場においては、以下に示されているQ&Aも参考にしつつ、裁量労働制適用時と非適用時の取扱いの違いなどを明確にするなど、来年春までにしっかり準備しましょう。
■「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」(厚生労働省)より
2-3
(Q)裁量労働制適用労働者が同意の撤回をした場合に、裁量労働制非適用労働者の等級が適用労働者のものより低いために、同意の撤回後に基本給額や手当額が撤回前より下がる場合や、適用労働者のみ支給対象の手当が支給されなくなる場合、これらは同意の撤回を理由とした不利益な取扱いに当たるか。
(A)裁量労働制適用前に、あらかじめ労働契約(個別の労働契約や就業規則等)の内容として、適用労働者と非適用労働者の等級とそれに基づく賃金額や、適用労働者のみ支給対象の手当が定められている場合には、撤回後の労働条件は当該労働契約の内容に基づき決定されるものであるから、その内容が明らかに合理性のないものでない限り、撤回を理由とする不利益取扱いには当たらない。
なお、同意の撤回後の処遇等について、あらかじめ労使協定又は決議で定めておくことが望ましいことに留意する必要がある。
2-4
(Q)令和6年3月31日まで専門型を適用していたが、令和6年4月1日以降労働者の同意を取得できず制度が適用されないこととなった場合に、裁量労働制非適用労働者の等級が適用労働者のものより低いために、基本給額や手当額が従前よりも下がる場合や、適用労働者のみ支給対象の手当が支給されなくなる場合、これらは同意をしなかったことによる不利益な取扱いに当たるか。
(A)令和6年4月1日より前に、あらかじめ労働契約(個別の労働契約や就業規則等)の内容として、適用労働者と非適用労働者の等級とそれに基づく賃金額や、適用労働者のみ支給対象の手当が定められている場合には、同意をしなかった場合の労働条件は当該労働契約の内容に基づき決定されるものであるから、その内容が明らかに合理性のないものでない限り、同意をしなかったことを理由とする不利益取扱いには当たらない。
執筆陣紹介
- 岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
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食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。