「変形労働時間制」の取扱いについて
~適切に扱っていますか?~
-
【5分で納得コラム】今回は、「変形労働時間制」の取扱いについて解説します。
「変形労働時間制」の取扱いは適切ですか?
1. 変形労働時間制とは
労働基準法では、使用者は、労働者に、1日について8時間、1週間について40時間を超えて労働させてはならない旨を定めています。この1日8時間・1週40時間※を「法定労働時間」といいます。なお、事前に労使協定(36協定)を締結した場合は、その範囲内で法定労働時間を超える労働(時間外労働)をさせることもできますが、この場合は当該労働に対して割増賃金の支払いが必要になります。
※一定の事業場(特例措置対象事業場)については、週の法定労働時間は44時間になります。所定労働時間(休憩時間を除く始業時刻から終業時刻までの時間)は会社で任意に定めることができますが、法定労働時間の範囲内とする必要があります。しかし、業務によっては、日、週又は季節等により労働時間にバラツキがあり、繁忙期には法定労働時間を超過して労働させる必要があるものの、閑散期にはそれに満たない時間しか労働させる必要がない場合もあります。このような場合に、所定労働時間を弾力的に定めることができるようにした制度が「変形労働時間制」です。
変形労働時間制を適用した場合は、対象期間(変形期間)における1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲内で、特定の日又は特定の週に法定労働時間を超える所定労働時間を定めることができます。
例えば、以下の例のように、変形期間を1ヵ月(1日~末日)とする変形労働時間制を適用した場合は、1ヵ月における1週間あたりの所定労働時間は約37.9時間と法定労働時間(40時間)を超えないため、週42時間の所定労働時間を定めることができます。また、当該週の法定労働時間を超える2時間分は時間外労働の扱いになりません。
*変形期間を1ヵ月(1日~末日)とする変形労働時間制を適用した場合の勤務予定(例)
対象期間(変形期間)における1週間あたりの労働時間
= 168時間 ÷(31日÷7日)≒ 37.9時間 ≦ 40時間2. 変形労働時間制を適用するために
変形労働時間制には、変形期間により、1ヵ月単位、1年単位などの複数の仕組みがありますが、ここでは1ヵ月単位の変形労働時間制の適用方法について確認します。
労働基準法(32条の2)では、「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1ヵ月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。」としています。
つまり、1ヵ月単位の変形労働時間制を適用するためには、
①労使協定又は就業規則等に
②1ヵ月以内の期間(変形期間)を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で
③各日、各週の労働時間を定める、ことが必要になります。なお、「変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない」(通達昭和63年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)との解釈が示されています。
3. 裁判で否認されることも
前述の変形労働時間制の適用要件を満たしていないなどとして、変形労働時間制について裁判で否認される例がみられます。
例えば、1ヵ月単位の変形労働時間を適用していた多店舗展開をするチェーン店の裁判(名古屋地判・令和4年10月26日)では、勤務シフトが複数あるため、就業規則では4つの原則的な勤務シフトを定め、実際の勤務は店舗独自の勤務シフトを使って勤務割を作成していたところ、『就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない』として、変形労働時間制は無効との判断がなされました。なお、新聞報道によれば、高裁でも変形労働時間制について無効の判断が維持されたとのことです。
上記の裁判例以外でも、各日、各週の労働時間が具体的に特定されていない、業務の都合で当初の予定が変更されているなどとして、変形労働時間制が否認され、過去の勤務の法定労働時間を超える時間について遡って割増賃金の支払いが命じられている例があります。
実際に、変形労働時間制を適用しているものの、勤務予定を曖昧にしか決めていなかったり、業務の都合で勤務予定を何度も変更したりするなど、適用要件を満たしていないと思われるケースが散見されますので、変形労働時間制を導入している企業においては、運用を点検し、適切な運用が実務上難しいと判断される場合には、労働時間制度自体を見直す対応が必要になります。
執筆陣紹介
- 岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
-
食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。
-
≪岩楯めぐみ氏の最近のコラム≫
※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。