令和4年度「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」の解説

2023年9月13日
令和4年度「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」の解説

【5分で納得コラム】今回は、「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」について解説します。

令和4年度「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」の解説

1. 8割を超える事業場で法令違反あり

今回は、2023年8月に厚生労働省より公表された「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果」の中から一部を抜粋してご紹介します。

本結果は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1ヵ月当たり80 時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象にした労働基準監督署の立入調査の結果をまとめたものですが、令和4年度(令和4年4月から令和5年3月まで)は、33,218事業場に対して立入調査が実施され、そのうち労働基準関係の法令違反があったのは26,968事業場(81.2%)となっており、当該調査対象の8割を超える事業場で法令違反が確認されています。

■令和4年度の長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導実施事業場数等

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出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表しますPDF」より


なお、労働基準関係の法令違反があった26,968事業場のうち、労働時間に関する違反(36協定なく時間外労働を行わせている、36協定が無効又は36協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせていることにより違法な時間外労働がある)があった事業場は14,147事業場(42.6%)、賃金不払残業があった事業場は3,006事業場(9.0%)、健康障害防止措置に関する違反(衛生委員会を設置していない、健康診断を行っていない、長時間労働者に対する法令の医師の面接指導を行っていない等)があった事業場は8,852事業場(26.6%)になっています。

2. 監督指導の事例

本結果の中では3つの事例が公表されていますが、「立入調査で把握した事実」を抜粋すると、以下のとおりになっています。

事例1(倉庫業)

立入調査で把握した事実

① 倉庫業の事業場(労働者約100人)で勤務する労働者からの、長時間労働の実態があるという情報に基づき、立入調査を実施した。

② 倉庫内で商品の仕分けを行う労働者11人について、業務量に比して人員体制が不十分であったことから、36協定で定めた上限時間(特別条項:月79時間)を超え、かつ労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える、最長で1か月当たり201時間の違法な時間外・休日労働が認められた。

③ また、常時50人以上の労働者を使用しているにもかかわらず、労働者に対して心理的な負担を把握するためのストレスチェックを実施していなかった。

事例2(接客娯楽業)

立入調査で把握した事実

① ゴルフ場の運営を行う事業場(労働者約80人)において、コース管理の業務に従事する労働者が急性心不全で死亡し、長時間労働を原因とする脳・心臓疾患の労災請求がなされたため、立入調査を実施した。

② 脳・心臓疾患を発症した労働者について、発症前の勤務状況を確認したところ、ゴルフ選手権の準備のために業務が集中したことにより、36協定で定めた上限時間(月42時間)を超え、かつ労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限時間(月100時間未満)を超える、最長で1か月当たり136時間の違法な時間外・休日労働が認められた。

③ また、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた当該労働者に対し、時間外・休日労働時間に関する情報を通知していなかった。

④ そのほか、休日労働を行った労働者に対し、休日労働に対する割増賃金を全額支払っていないことが明らかになった。

事例3(食料品製造業)

立入調査で把握した事実

① 各種情報から、時間外・休日労働が1か月当たり80時間を超えていることが疑われたことから、弁当等の惣菜を製造する事業場(労働者約190人)に、立入調査を実施した。

② 製造ラインの労働者5人について、突発的な業務繁忙により、36協定で定めた上限時間(特別条項:月99時間)を超え、かつ労働基準法に定められた時間外・休日労働の上限時間(月100時間未満、複数月平均80時間以内)を超える、最長で1か月当たり149時間の違法な時間外・休日労働が認められた。

③ 衛生委員会において、長時間労働による労働者の健康障害防止を図るための対策の樹立に関することについて調査審議されておらず、医師による面接指導の制度(長時間労働を行っている労働者に対し、医師による面接指導を実施する制度)も導入されていなかった。

④ 定期健康診断は実施していたものの、深夜業(22時~翌朝5時)に従事させる場合の健康診断を実施していなかった。


上記の公表された事例をみると、どのようなきっかけで労働基準監督署の立入調査が入ったのか、また、どのような点が確認されるのかがイメージできるかと思います。

3. 自社運用の点検を

労働基準法や労働安全衛生法などの使用者として遵守しなければならない法令は多岐にわたりますが、知らなかったでは済まされません。また、労務においては、遵守体制を整備したとしても、時間の経過とともに運用が乱れてまた元の状態に戻ってしまうこともあり、定期的な確認が求められます。

自社の労務管理の状況を確認したことがないという場合は特に、まずは、今回紹介されている労働時間、賃金不払残業、健康障害防止措置について何をしなければならないか、また、自社の運用に法令違反がないかを確認することをお勧めします。

なお、社会保険労務士などの外部専門家を活用する等して、労働法全般の遵守状況を点検する対応も考えられます。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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