<失業保険>基本手当の給付制限期間
自己都合離職の取扱いが変わる!?
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【5分で納得コラム】今回のテーマは「基本手当(失業保険)の給付制限期間」です。
基本手当の給付制限期間 自己都合離職の取扱いが変わる!?
1. 基本手当の給付制限期間
雇用保険の被保険者が失業した場合は、要件を満たす限り、雇用保険の求職者給付のひとつである基本手当(いわゆる“失業保険”)を受けることができますが、会社都合離職と自己都合離職とではその取扱いに差が設けられています。そのひとつが「給付制限期間」です。
給付制限期間は、基本手当を受けることができない期間をいいますが、下図の「基本手当の受給手続の流れ」にあるように、正当な理由のない自己都合離職の場合には、会社都合離職の場合と違って当該期間が設けられており、その後でなければ基本手当を受けられない仕組みになっています。
□基本手当の受給手続の流れ
これは基本手当が、解雇等の“自らの意思によらない失業”に対して給付を行うことを基本としており、「自らの意思により離職する者をそうでない者と同様に取り扱うことは、基本手当を受給することを目的として離職する者の発生を助長しかねないこと」、「離職前に求職活動中の生活設計を立て得るなど、解雇等のために急に収入の途絶えた者とは生活保障の必要性が相当異なること」などの理由によるものです。
2. 2020年10月から、3ヵ月→原則2ヵ月へ
1984年以降の約40年の間、自己都合離職の場合は3ヵ月の給付制限期間が設けられていましたが、厚生労働省の審議会のひとつである労働政策審議会職業安定分科会において2019年12月に報告された「雇用保険部会報告」を受けて、「安易な離職を防止するという給付制限の趣旨に留意しつつ、転職を試みる労働者が安心して再就職活動を行うことができるよう支援する観点から、その給付制限期間を5年間のうち2回までに限り2ヵ月に短縮する措置を試行する」こととされ、自己都合離職の場合の給付制限期間は、2020年10月1日から2ヵ月(5年以内に2回を超える場合は3ヵ月)へ見直されました。
3. 自己都合離職の取扱いが変わる!?
さらに、2023年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」の「三位一体の労働市場改革/成長分野への労働移動の円滑化」の中で、自己都合離職の場合でリ・スキリングに取り組んでいたときなどについて会社都合離職の場合と同じ扱いにするとの言及があり、今後、自己都合離職した場合の給付制限期間の取扱いがさらに緩和されそうです。
*「経済財政運営と改革の基本方針2023」より
三位一体の労働市場改革
一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要であり、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務である。
内部労働市場が活性化されてこそ、労働市場全体も活性化するのであり、人的資本こそ企業価値向上の鍵である。こうした考え方の下、「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。
また、地方、中小・小規模企業について、三位一体の労働市場改革と並行して、生産性向上を図るとともに、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる。
成長分野への労働移動の円滑化
失業給付制度において、自己都合による離職の場合に失業給付を受給できない期間に関し、失業給付の申請前にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の離職の場合と同じ扱いにするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。
また、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う。
さらに、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制の整備等に取り組む。
新卒入社した会社で定年まで勤めあげることが一般的だった時代は終わり、転職が身近になる中で、雇用保険の基本手当の役割も変わりつつあります。
執筆陣紹介
- 岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
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食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。