テレワークガイドラインの刷新
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2020年1月に日本国内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されてからすでに1年3ヵ月が経過しましたが、変異ウィルス感染者の増加がみられるなど、依然として先行きは不透明な状況が続いています。
このような中、インターネットなどのICTを活用して自宅などで仕事をする「テレワーク」は、ウィズコロナ・ポストコロナの「新しい生活様式」にも対応した有効な働き方であるとされ、今後もテレワークを推進し、定着させていくことが必要であると考えられています。これを受けて、本年3月に、2018年2月に策定された「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が全面的に刷新され、名称も「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に改められました。
当該ガイドラインには、テレワーク導入に際しての留意点、人事評価制度や費用負担などの労務管理上の留意点、労働時間制度の活用、労働時間管理の工夫、安全衛生の確保、労災補償、ハラスメント対応などについてまとめられていますが、例えば、労働時間管理については次の内容が記載されています。7 テレワークにおける労働時間管理の工夫
(1)テレワークにおける労働時間管理の考え方
テレワークの場合における労働時間の管理については、テレワークが本来のオフィス以外の場所で行われるため使用者による現認ができないなど、労働時間の把握に工夫が必要となると考えられる。
一方で、テレワークは情報通信技術を利用して行われるため、労働時間管理についても情報通信技術を活用して行うこととする等によって、労務管理を円滑に行うことも可能となる。
使用者がテレワークの場合における労働時間の管理方法をあらかじめ明確にしておくことにより、労働者が安心してテレワークを行うことができるようにするとともに、使用者にとっても労務管理や業務管理を的確に行うことができるようにすることが望ましい。(2)テレワークにおける労働時間の把握
テレワークにおける労働時間の把握については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日基発0120第3号。以下「適正把握ガイドライン」という。)も踏まえた使用者の対応として、次の方法によることが考えられる。
ア 客観的な記録による把握
適正把握ガイドラインにおいては、使用者が労働時間を把握する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、始業及び終業の時刻を確認すること等が挙げられている。情報通信機器やサテライトオフィスを使用しており、その記録が労働者の始業及び終業の時刻を反映している場合には、客観性を確保しつつ、労務管理を簡便に行う方法として、次の対応が考えられる。
- ①労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等により、労働時間を把握すること
- ②使用者が労働者の入退場の記録を把握することができるサテライトオフィスにおいてテレワークを行う場合には、サテライトオフィスへの入退場の記録等により労働時間を把握すること
イ 労働者の自己申告による把握
テレワークにおいて、情報通信機器を使用していたとしても、その使用時間の記録が労働者の始業及び終業の時刻を反映できないような場合も考えられる。
このような場合に、労働者の自己申告により労働時間を把握することが考えられるが、その場合、使用者は、- ①労働者に対して労働時間の実態を記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うことや、実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用等について十分な説明を行うこと
- ②労働者からの自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、パソコンの使用状況など客観的な事実と、自己申告された始業・終業時刻との間に著しい乖離があることを把握した場合(※)には、所要の労働時間の補正をすること
- ③自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないことなどの措置を講ずる必要がある。
※ 例えば、申告された時間以外の時間にメールが送信されている、申告された始業・終業時刻の外で長時間パソコンが起動していた記録がある等の事実がある場合。
なお、申告された労働時間が実際の労働時間と異なることをこのような事実により使用者が認識していない場合には、当該申告された労働時間に基づき時間外労働の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払等を行っていれば足りる。
労働者の自己申告により労働時間を簡便に把握する方法としては、例えば一日の終業時に、始業時刻及び終業時刻をメール等にて報告させるといった方法を用いることが考えられる。(3)労働時間制度ごとの留意点
テレワークの場合においても、労働時間の把握に関して、労働時間制度に応じて次のような点に留意することが必要である。
- ・フレックスタイム制が適用される場合には、使用者は労働者の労働時間については、適切に把握すること
- ・事業場外みなし労働時間制が適用される場合には、必要に応じて、実態に合ったみなし時間となっているか労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直すこと
- ・裁量労働制が適用される場合には、必要に応じて、業務量が過大又は期限の設定が不適切で労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われていないか、みなし時間と当該業務の遂行に必要とされる時間とに乖離がないか等について労使で確認し、使用者はその結果に応じて業務量等を見直すこと
(4)テレワークに特有の事象の取扱い
ア 中抜け時間
テレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じることが考えられる。
このような中抜け時間については、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい。
テレワーク中の中抜け時間を把握する場合、その方法として、例えば一日の終業時に、労働者から報告させることが考えられる。また、テレワーク中の中抜け時間の取扱いとしては、
- ①中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱う
- ②中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱う
これらの中抜け時間の取扱いについては、あらかじめ使用者が就業規則等において定めておくことが重要である。イ 勤務時間の一部についてテレワークを行う際の移動時間
例えば、午前中のみ自宅やサテライトオフィスでテレワークを行ったのち、午後からオフィスに出勤する場合など、勤務時間の一部についてテレワークを行う場合が考えられる。
こうした場合の就業場所間の移動時間について、労働者による自由利用が保障されている時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられる。
一方で、例えば、テレワーク中の労働者に対して、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当する。ウ 休憩時間の取扱い
労働基準法第34条第2項は、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定しているが、テレワークを行う労働者について、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能である。
エ 時間外・休日労働の労働時間管理
テレワークの場合においても、使用者は時間外・休日労働をさせる場合には、三六協定の締結、届出や割増賃金の支払が必要となり、また、深夜に労働させる場合には、深夜労働に係る割増賃金の支払が必要である。
このため、使用者は、労働者の労働時間の状況を適切に把握し、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましい。オ 長時間労働対策
テレワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、
- ・労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなる
- ・業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずる
このような点に鑑み長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワークライフバランスの確保に配慮することが求められている。
テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられる。(ア)メール送付の抑制等
テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。
このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられる。(イ)システムへのアクセス制限
テレワークを行う際に、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスする形態をとる場合が多いが、所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することが有効である。
(ウ)時間外・休日・所定外深夜労働についての手続
通常のオフィス勤務の場合と同様に、業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点からテレワークを導入する場合にも、その趣旨を踏まえ、労使の合意により、時間外等の労働が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定することも有効である。この場合には、労使双方において、テレワークの趣旨を十分に共有するとともに、使用者が、テレワークにおける時間外等の労働に関して、一定の時間帯や時間数の設定を行う場合があること、時間外等の労働を行う場合の手続等を就業規則等に明記しておくことや、テレワークを行う労働者に対して、書面等により明示しておくことが有効である。
(エ)長時間労働等を行う労働者への注意喚起
テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・所定外深夜労働が生じた労働者に対して、使用者が注意喚起を行うことが有効である。
具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示するような方法が考えられる。(オ)その他
このほか、勤務間インターバル制度はテレワークにおいても長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられ、この制度を利用することも考えられる。
また、「テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」や「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】」も記載されていますので、テレワークをこれから導入する予定の場合だけでなく、すでに導入している場合も内容を確認のうえ、制度導入又は制度改定の参考にしてください。
執筆陣紹介
- 岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
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食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「最新整理 働き方改革関連法と省令・ガイドラインの解説」(共著/日本加除出版株式会社)、「アルバイト・パートのトラブル相談Q&A」(共著/民事法研究会)他。
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。