新型コロナウイルス感染症が決算に与える影響について
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今般の新型コロナウイルス感染症の世界各地での流行は、企業の経済活動に多大な影響を与えています。当然ながら、企業の開示情報に与える影響も大きいと考えられます。そこで、今回は新型コロナウイルス感染症に関連した各種行政からの支援策や税務申告・納付の緩和措置、開示実務への影響や2020年3月期決算の留意事項を取り上げます。
・今回取り上げる内容のサマリーは以下の通りです。
目次
大項目 中項目 小項目 ①税務への影響 1.所得税等の申告納付期限の延長及び納付猶予制度などの案内 国税庁は、申告所得税等の確定申告について、申告・納付期限を一括延長するなどの措置を講じているほか、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方には納税の猶予制度を案内するなどの対応を行っています。 ②事業者への資金繰り支援 1.無利子・無担保による資金繰り支援策等の紹介 日本政策金融公庫や商工中金が新型コロナ感染症特別貸付などで資金繰り支援策を講じていることが紹介されています。 ③開示実務への影響 1.上場企業の適時開示及び上場廃止基準への影響 上場会社は、新型コロナウイルスの影響を適時に開示することが求められています。また、上場廃止基準については、新型コロナウイルスによる影響の場合、一部要件が変更される方針であることが示されています。 2.有価証券報告書等の提出期限延長 有価証券報告書や四半期報告書の提出期限が延長される場合があります。 3.定時株主総会への影響 定時株主総会の開催の延期が認められる場合があります。 ④2020年3月決算時の留意事項 1.会計上の見積りに関する項目 将来キャッシュ・フローの悪化や課税所得の見積りの下振れがある場合、減損損失や繰延税金資産等の検討に影響を与える場合があります。 また、有価証券などの金融商品を保有する場合、評価損の計上を検討する必要があります。 さらに、取引先や自社の業績不振により、債権や在庫の評価に影響を与える場合があります。 2.財務諸表等や計算書類等の開示への影響 継続企業の前提に関する注記や、後発事象の注記に注意が必要です。 ➀税務への影響
- 所得税等の申告納付期限の延長及び納付猶予制度などの案内
国税庁は、申告所得税等の確定申告について、申告・納付期限を一括延長するなどの措置を講じているほか、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方には納税の猶予制度を案内するなどの対応を行っています。具体例としては、一定の要件の下に、国税(法人税や所得税等)の一年間納付猶予が認められる場合があります。
参考URL(国税庁): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf
➁事業者への資金繰り支援
- 無利子・無担保による資金繰り支援策等の紹介
経産省は、新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者に向けて、日本政策金融公庫や商工中金が新型コロナ感染症特別貸付などで支援できることを紹介しています。複数の支援策が紹介されていますが、一例は下記のとおりです。
-新型コロナウイルス感染症特別貸付
「日本政策金融公庫等が、新型コロナウイルス感染症による影響を受け業況が悪化した事業者(事業性のあるフリーランスを含む)に対し、融資枠別枠の制度を創設。信用力や担保に依らず一律金利とし、融資後の3年間まで0.9%の金利引き下げを実施。据置期間は最長5年。3月17日より制度適用開始。」
その他詳細は、下記のURLをご参照ください。
参考URL(経済産業省): https://www.meti.go.jp/covid-19/
➂開示実務への影響
- 上場企業の適時開示及び上場廃止基準への影響
東京証券取引所は、新型コロナウイルス感染症の拡大が企業の事業活動および経営成績に与える影響に関して、決算短信や業績予想において適時・適切な開示をするよう要請しています。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、債務超過となった場合は、上場廃止基準における改善期間を延長すること(1年→2年)、および意見不表明または事業活動の停止があった場合、上場廃止基準の対象外とする方針を示しています。
参考URL: https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000004mc80-att/nlsgeu000004mcaw.pdf
- 有価証券報告書等の提出期限延長
金融庁は、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により下記の期限までに有価証券報告書等を提出できない場合は、財務(支)局長の承認により、期限の延長を認めることとしています。
種別 提出期限 有価証券報告書及び内部統制報告書 事業年度経過後3ヶ月以内 四半期報告書 四半期会計期間経過後45日以内 半期報告書 中間会計期間経過後3ヶ月以内 参考URL(金融庁): https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html
- 定時株主総会開催への影響
法務省は、定時株主総会の開催時期についての説明資料を公表しています。具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定した時期に定時株主総会を開催できない場合、その状況が解消された後、合理的な期間内に開催すればよい旨の説明がなされています。
参考URL(法務省): http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
➃2020年3月決算時の留意事項
期末決算時において、新型コロナウイルス感染症の影響により、企業の財政状態や経営成績、将来キャッシュ・フローの悪化が想定されます。このような状況で一般的に、会計上留意すべき事項を列挙します。
- 会計上の見積りに関する項目
- 事業活動が低下し、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れの可能性等が見込まれる場合、下記の項目について特に注意が必要です。例えば、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大している国や地域に工場や販売拠点等を多く持つ企業や、海外渡航規制・外出自粛要請の影響で急激に業績が悪化した飲食業や観光業等を営む企業は、下記項目を検討する可能性が高いといえます。その際に、新型コロナウイルス感染症による将来の業績への影響をどう織り込むか難しい判断になると考えられます。
- ■ 固定資産の減損損失計上の検討
- ■ 子会社株式等の減損損失計上の検討
- ■ 繰延税金資産の回収可能性の検討
- ■ 債権の回収可能性の検討
- ■ 在庫評価の検討
- また、企業が期末時点において、上場株式や株式指数等に連動する仕組債等の有価証券を保有している場合は、時価が著しく低下していないかを検討する必要があります。株式に限らず、デリバティブや投資信託などの金融商品の市場価格は大きく変動しているため、注意が必要です。
- 事業活動が低下し、将来キャッシュ・フローの悪化、将来の課税所得の見積りの下振れの可能性等が見込まれる場合、下記の項目について特に注意が必要です。例えば、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大している国や地域に工場や販売拠点等を多く持つ企業や、海外渡航規制・外出自粛要請の影響で急激に業績が悪化した飲食業や観光業等を営む企業は、下記項目を検討する可能性が高いといえます。その際に、新型コロナウイルス感染症による将来の業績への影響をどう織り込むか難しい判断になると考えられます。
- 財務諸表等や計算書類等の開示への影響
新型コロナウイルス感染症が事業活動に大きく影響を与えている場合、下記項目に注意が必要です。
- 継続企業の前提に関する注記
- ■ 一般的には翌期以降の事業継続に疑義がある場合、その事実を注記として開示することを検討する必要があります。例えば、新型コロナウイルスの影響による売上不振により、翌期以降の資金繰りに重要な影響がある場合、継続企業の前提に関する注記が必要になる場合があります。
- 後発事象の注記
- ■ 後発事象は、修正後発事象と開示後発事象があります。決算日までに発生した事象を財務諸表等に反映するのが修正後発事象であり、決算日以降に発生した事象が翌年度以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表に注記をするのが開示後発事象です。すなわち、決算日までに発生した事象だけではなく、決算日以降に起きた事象も注記として開示対象となりうる点に注意が必要です。 例えば、2020年3月決算の企業を前提とすれば、2020年4月以降に起きた事象が翌期以降の企業の財政状態等に重要な影響を与える場合、2020年3月決算の注記として記載される可能性があります。
- 継続企業の前提に関する注記
なお、これらはすべて私見であり、検討すべき事項を網羅したものではないことを申し添えます。税務、支援策の利用、開示実務及び決算に当たっては、専門家と十分に相談することをお勧めします。
- 所得税等の申告納付期限の延長及び納付猶予制度などの案内
国税庁は、申告所得税等の確定申告について、申告・納付期限を一括延長するなどの措置を講じているほか、新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方には納税の猶予制度を案内するなどの対応を行っています。具体例としては、一定の要件の下に、国税(法人税や所得税等)の一年間納付猶予が認められる場合があります。
執筆陣紹介
- 仰星監査法人
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仰星監査法人は、公認会計士を中心とした約170名の人員が所属する中堅監査法人です。全国に4事務所(東京、大阪、名古屋、北陸)2オフィス(札幌、福岡)を展開しており、監査・保証業務、株式上場(IPO)支援業務、ファイナンシャルアドバイザリーサービス、パブリック関連業務、コンサルティングサービス、国際・IFRS関連業務、経営革新等認定支援機関関連業務などのサービスを提供。
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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。