副業と労働時間

2018年2月21日

副業と労働時間2

現在、厚生労働省では「働き方改革」の一環として副業・兼業の普及促進を図っています。
これらを背景に、副業について、企業秘密が漏えいする恐れがある場合は禁止する等の一定の制限を設けつつ、所定の手続きを行うことにより積極的に認めるルールに変更する会社もでてきました。
副業を積極的に認めるか否かについては、それぞれの会社において、副業のメリット・デメリットを事前に確認、検討した上で判断すべきものと考えますが、事前確認のひとつとして、副業をした場合の労働時間の考え方を整理しておく必要がありますので、今回はその点についてご紹介します。


労働時間の通算規定

労働基準法(第38条)では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」としています。これは、2つ以上の異なる事業場で働いた場合は、それぞれの事業場で働いた時間を“通算”して労働時間を把握し、割増賃金を支払う等の対応が必要になることを意味しています。
また、ここでいう「事業場を異にする」とは、”使用者が同じ場合“だけに限られず、”使用者が異なる場合“も含まれると解釈されています(昭和23年5月14日、基発769号)。つまり、副業によって異なる2つの会社で働いた場合に割増賃金の支払い等を適切に行うためには、”自社で働いた時間“だけでなく、副業により”他社で働いた時間“も含めて労働時間を把握する必要があります。




割増賃金の支払い等の義務を負うのは?

2018年1月に厚生労働省より公開された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の「Q&A」には、割増賃金の支払い等の労働基準法上の義務を負う使用者に関して次の記載があります。

●労働基準法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った(すなわち、それぞれの法定外労働時間を発生させた)使用者です。

●一般的には、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから、同法上の義務を負うこととなります。

●通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が同法上の義務を負うこととなります。

これによれば、副業を認める場合は、副業に関する労働契約の内容(所定労働時間)や時間外労働の実施時期を把握した上で、割増賃金を支払うべき時間を特定することとなります。

自社で勤務している従業員の副業を認めた場合について例示すると下記の通りとなります。
なお、割増率は法定通りの前提とします。

例1

・自社の労働契約:所定労働時間9:00~18:00(実働8時間、休憩1時間)
・副業に関するA社との労働契約:所定労働時間21:00~22:00(実働1時間)
・自社で9:00~18:00(実働8時間、休憩1時間)、A社で21:00~22:00(実働1時間)勤務した場合

労働時間-所定労働時間1

⇒割増賃金を支払う義務はない。
なお、通算により法定労働時間(8時間)を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者である「A社」は割増賃金を支払う義務を負う。

例2

・自社の労働契約:所定労働時間9:00~17:00(実働7時間、休憩1時間)
・副業に関するA社との労働契約:所定労働時間21:00~22:00(実働1時間)
・自社で9:00~18:00(時間外1時間を含む実働8時間、休憩1時間)、A社で21:00~22:00(実働1時間)勤務した場合

労働時間-割増賃金2

⇒自社で働いた時間のみであれば、所定労働時間7時間+時間外1時間=8時間となり、法定労働時間(8時間)を超えていないが、自社とA社を通算した所定労働時間が既に法定労働時間(8時間)に達していることから、17:00~18:00までの1時間については、法定労働時間(8時間)を超える時間外労働として125%の割増賃金を支払う義務を負う。

上記の通り、副業を認める場合は、副業先での労働時間の把握方法等について事前に整理した上で対応が必要となります。なお、個人事業主として副業を行う場合は、労働基準法の適用を受けませんので上記の取り扱いの必要はありません。





執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)
食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)、「まるわかり労務コンプライアンス」(共著/労務行政)他。


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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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