【ナレッジセンター】
有期雇用契約における無期転換制度
他社はどうする?「人事担当者が感じた9つの疑問・第1回」

2017年2月28日

平成30年4月に本格運用を控えている「有期雇用契約における無期転換制度」。
正社員との差別化や脱法行為とみなされない雇止めなど、「なにをどこまでやるべきか?」判断がつかず、多くの企業が方針検討段階のままでいるのが実情です。
今回は「無期転換制度の対策」をテーマに、様々な企業の人事担当者でおこなった意見交換会から、各社が感じている疑問とそれに対する各社の見解について、3回に分けてご紹介します。

気になるのは「他社はどこまでやろうとしているのか?」

今回の労働契約法改正に併せて、企業は新たな雇用形態の新設や契約内容の見直しをする必要があります。
ただし、本制度に関する判例がない現時点では「他社はどうするのか?どこまでやろうとしているのか?」といった他社の動向が気になるところです。
そこで、クレオマーケティングでは、様々な業種と規模の企業で、実務に携わる人事担当者30名にお集まりいただき、「無期転換制度の備え」と題して、意見交換会を開催しました。
参加した企業の傾向は、製造業が3割と最も多く、制度対応の検討がこれからという企業が7割を占めていました。また、本制度の対象となる従業員の傾向では、フルタイム・長期契約・恒常的な業務を担当しているケースが6割から7割となりました。

では、実際に実務に携わる人事担当者は、無期転換制度に対して、どんな疑問や課題をもっているのでしょうか。 意見交換会では、参加者があげた疑問や課題に対し、既に取り組まれている企業、同じ疑問を抱えている企業の人事担当者から、それぞれの見解や意見を交換しました。
現場の生の声によるディスカッションは、制度解説のガイドラインだけでは読み取れない気付きを得ることができ、有益なディスカッションになったと思います。

尚、関心の高かったテーマ(疑問や課題)をまとめると、次の9つになります。

1)対象者への「説明」はどのようにおこなう?
2)従業員の「メリット・デメリット」
3)「制度見直し」で注意する点は?
4)繁閑に応じて、契約期間を「カウントしない」ようにするには?
5)「退職届未回収」傾向の対策
6)契約書に「次回更新なし」と記載した方が良い?
7)実際に「雇止め」は実施する?
8)無期転換後の「定年制度」は設けるべき?
9)「更新期待権」はどう薄める?

本コラムでは、この9つの疑問に対する各社の見解や意見を、3回に分けてご紹介していきます。
今後の取り組みの参考にしていただければ幸いです。

Q-1 対象者への説明はどのようにおこなう?

●事務代行サービス業
客先に常駐している従業員が多く、会社説明会を開くのは現実的ではありません。
パートなどの有期雇用者が多いこともあり、所属長から従業員へ説明してもらうようにしました。 既に幹部社員への説明会はおこなっています。

●医療事務サービス業
まだ検討中です。

●製造業
基本的には「雇止め」を考えていないため、説明会の形式は不要と考えています。
ただし、今後、しっかりと説明をする必要が出てくれば、説明会の開催を検討することはあり得ます。

●広告サービス業
対象となる従業員および上長へ、法改正について正しい理解を促す必要があると思いますので、説明会を開催します。

●広告業
説明会を実施します。説明会の形式にした理由は、契約更新には勤務評価が影響することを伝え、従業員のやる気を奮起させたいという狙いがあります。

●サービス業
社風としてメールや社内掲示板では、周知が徹底されない傾向があるため、あえて説明会を実施する予定です。

●半導体部品製造業
上長が契約時に個別に説明するようにします。有期雇用者が従業員全体の5%と少ないため、個別で十分に対応できると考えています。

●卸売業
2013年4月の法令改正のタイミングから事前準備にとりかかり、実際の方針決定は2015年に入ってからおこないました。説明会も既に実施しましたが、特にトラブルはありませんでした。

本来であれば、制度の理解が深い人事担当者による集合形式の説明会が望ましいと思いますが、拠点も全国にあったり、勤務時間がバラバラの場合、説明会の開催が難しい会社もあると思います。
説明をする上で大事なことは、本人が正しく理解し、有期雇用のままでいくのか、無期転換を希望するのか、しっかりと判断できるようにすることです。ですから、個別説明でも、正しく質疑応答が行えれば、集合形式よりも有益と言えます。また、説明者がその場で回答できない場合でも、後で人事部が回答するように、現場と人事が連携することで、きめ細かな対応をとることができます。
そして、きめ細かな対応は、従業員と会社の信頼関係にも繋がり、契約の見直しをスムーズに進めることになります。集合形式、個別方式のどちらが自社にとって有効かは、各社の状況に応じて選択すれば良いと思います。

Q-2 従業員のメリット・デメリットにはどんなことが考えられる?

●医療サービス業
従業員にとっては、従前の労働条件が適用された上で、雇用期間が無期になるというだけですから基本的に不利益になることは無いと考えています。むしろ、契約更新時に辞めさせられるという心配が無くなるというメリットだけを感じているのではないでしょうか。

●小売業
対象者が主婦で、子育て世代だったりすると、子どもの通う学校の状況で、あえて毎年契約を見直したいといった人もいます。その場合は、有期でいることにメリットがあるということになるので、本人にとっては、契約更新時に選択肢が増えるだけと思っているかもしれません。

●製造業
当社の場合は、嘱託から社員へ雇用変更した社員が、仕事の分担や責任が増えたことで負担を感じ、退職するケースがあります。結果的には、有期のままで良い人もいると思います。

●サービス業
メリットがあるか無いかは、有期と無期の違いを正しく伝えられかによると思います。
グレーゾーンがあれば、そこから、いろいろな不満や不信感につながります。
有期・無期それぞれの雇用形態に応じた雇用契約書を用意しておき、従業員と会社それぞれのメリット・デメリットを整理しておけば、説明も明確になり、合意形成がしやすくなります。
要するに、お互いにとってわかり易くしておくことが大事です。
雇用契約書の作成は手間ですが、今回の場合、基本的には「有期」の労働条件の複写に「休職・定年」などの情報を付加したもので良いので、事前にしっかり準備をしておきたいと思います。

今回の契約内容の見直しでは、併せて、勤務時間見なおしもおこなう会社もあると思います。その場合、従業員の要望か、会社都合かによって、注意が必要です。
これまで、週30時間の人が、今回の更新を機に、家庭の事情で週20時間を希望したとしても、会社はそれを強制的に拒否することはできません。従来どおり、個別交渉となります。
また、会社都合で週20時間勤務を週30時間に変更させたい場合もあると思いますが、本人がそれを拒んだ場合は、20時間で契約するしかありません。
今回の制度改正は、従前の勤務条件を引き継ぐことが基本となっていますので、無期転換制度を理由に時間延長を強制することはできません。

Q-3 制度見直しの際に注意している点は?

●製造業
無期転換後は契約更改のタイミングが無くなるため、契約を見直す口実となるよう、評価制度を新たに準備しています。

●広告サービス業
現在、契約社員は評価結果に応じて、1年で正社員に登用しています。評価方法は、現場の上長が、6ヵ月や10カ月の期間で能力や売上実績、周囲との関係性などから判断しています。
今後は「5年以内に社員登用されなければ契約満了」とする仕組みに変更しようとしています。
「雇い止めをする為の評価をおこなう」のではなく、「無期転換するための評価」とすることがポイントです。

●製造業
評価制度が重要になってくると考えていますが、現状は、評価基準が統一されておらず、現場まかせの状態であることが、弊社の課題となっています。

●精密機器製造業
有休制度の付与開始日や休職期間の上限など、現在は正社員と有期雇用者で、異なる制度にしています。今後、無期契約社員の労働条件の差別化を、何をもってするのか、まだ検討中です。

●卸売・小売業
就業規則は、有期契約社員は現行通りとし、無期転換の従業員は、正社員側に寄せることで、基本的には「有期」と「正社員」の2通りにする方向で考えています。

●製造業
正社員と同じ仕事内容をパート社員が行っている場合、本人は無期転換だけでなく、正社員になりたいという思いがあると思います。また、「同一労働同一賃金」を考えると、労働条件の差別化は簡単ではないと感じています。

●サービス業
弊社では、雇用形態として、契約社員と契約スタッフ(バイト)があり、契約社員は正社員登用していく流れがあります。そのため、これまでは正社員と契約社員の労働条件は同一にし、契約スタッフ(バイト)と2通りの雇用形態としていました。今回、労働契約も業務内容も異なる契約スタッフ(バイト)が無期に転換した後の雇用形態を新たに準備しています。

今回の法改正にともなう制度改定では、地域正社員化について見直しを検討されている企業が有りました。
こちらの企業では、現在、地域正社員制があるため、無期転換した社員は、地域正社員にしたい考えのようですが、地域正社員は「労働組合加入」「共済会加入」などが義務付けられるため、金銭的な負担を強いることになります。無期転換ルールはあくまでも期間の定めを外すことを目的としているため、このケースでは、強制的に地域正社員へ転換することはできず、個別に合意を得る必要があります。



第2回では「繁閑に応じて、契約期間をカウントしない方法」「退職届が未回収になりがちな場合の対策」「次回更新無しと契約書に記載する際の注意点」について、各社の見解をご紹介します。

3回分のコラムをまとめたダウンロード版はこちら
「ディスカッションレポート・有期雇用契約における無期転換制度 人事担当者が感じる9つの疑問」

コラム一覧に戻る

過去の社労士コラム一覧に戻る