第11回 ROICとは
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【5分で納得コラム】
今回のテーマは、「ROICとは」です。近年、日本においてROIC経営への関心が高まっています。ROIC経営とは、ROIC(投下資本利益率)を主要な経営指標として活用する経営手法を指します。この手法では、FP&Aが重要な役割を果たします。具体的には、収益性の分析、資本配分の最適化、低収益事業の見直しといった活動を通じて、経営資源の効率化を支援します。
さらに、ROIC目標を中期経営計画に組み込み、財務シナリオ分析や投資評価を行うことで、経営陣や投資家との建設的な対話を促進します。このような取り組みは、株価の安定や投資家からの信頼向上にも寄与するため、FP&Aの戦略的価値が一層重要視されています。第11回 ROICとは
1. ROICとは
(1)ROICとは
ROIC(Return On Invested Capital)とは、投下資本利益率のことをいい、「税引後営業利益÷投下資本(有利子負債+株主資本)」の算式で算定されます。
ROICは、銀行などからの有利子負債や株主からの自己資本で構成される「投下資本」に対する利益の割合を示します。この指標を活用することで、資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを把握することが可能です。
近年、日本でもROICの重要性が高まり、多くの企業が経営指標として採用しています。特に、ROICを重視することで資本コストを上回るリターンを実現し、企業価値を向上させることが求められるようになっています。
(2)他の指標
ROICと同様に、資本の収益性を測る指標としてROE(Return On Equity:自己資本利益率)やROA(Return On Assets:総資産利益率)があります。
ROEは、株主の視点から企業の収益性を評価する指標です。これは、株主資本(自己資本)に対する当期純利益の比率を示し、株主への配当の原資となる利益の効率性を測ります。
ROAは、企業が保有するすべての資産に対する利益率を測る指標です。この中には、投下資本だけでなく、取引先への買掛金なども含まれます。
一方、ROICは経営者の視点から企業の収益性を評価する点が特徴であり、資本の効率的な活用を重視します。
2. ROICの活用方法
日本企業は、ROICを通じて企業価値向上のための戦略を見直しています。具体的には、以下のような方法でROICを活用しています。
(1)資本コストを意識した投資判断
ROICを用いることで、企業は資本コストを上回るリターンを生み出すかどうかを判断しやすくなります。これにより、無駄な資本投入を抑え、より収益性の高い事業やプロジェクトに資本を集中させることが可能となります。例えば、自動車メーカーや家電メーカーなどの製造業では、資本効率を高めるために不採算事業からの撤退や事業の再構築が行われており、ROICの視点から収益性の低い事業を精査することが増えています。
(2)事業ポートフォリオの見直し
ROICの観点から事業ポートフォリオを見直し、低収益の事業を縮小または売却することも一般的です。この考え方は、大手企業だけでなく中堅・中小企業にも浸透しています。ROICの観点から資本効率を評価し、不採算事業の整理や事業再編成を通じて収益性の向上が図られます。
(3)社内KPIとしての採用
多くの日本企業では、ROICを経営層だけでなく、部門レベルやプロジェクトレベルのKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)として活用しています。これにより、各部門やプロジェクトが資本コストを意識しつつ、効率的に利益を上げることが求められます。例えば、製造業では設備投資のROIを明確にした上で、投資案件の採択を行うような動きが進んでいます。
3. 投資家の視点からのROIC
日本市場では、投資家も企業のROICを重視するようになっています。ROICが高い企業は、投資家から見ても効率的に資本を使っているため、投資先としての魅力が高まります。また、近年の株主還元策の強化や、持続的成長を目指す企業に対する投資家の関心が高まる中で、ROICの改善に努める企業は株式市場で高く評価される傾向にあります。
(1)ESGとROICの関連性
ROICは、ESG(Environmental, Social, Governance)投資の視点とも密接に関連しています。企業の効率的な資本活用は、持続可能なビジネスモデルの構築に寄与し、長期的な視点から見た企業価値の向上につながります。日本でもESG投資が進む中で、ROICはESG評価における重要な指標の一つとして捉えられています。
(2)アクティビスト投資家の影響
アクティビスト投資家も、企業価値向上のためにROICの改善を提案するケースが増えています。日本企業に対しては、資本効率の向上を求めるアクティビスト投資家からの提案が増えており、ROICを活用した資本戦略の見直しが促されています。これにより、資本効率の低い事業からの撤退や、不必要な資産の売却が進むケースも見られます。
4. ROIC導入における課題
(1)短期的な視点と長期的な視点のバランス
ROICは短期的な指標として活用されがちですが、持続的な成長を目指すには長期的な視点も重要です。短期的なROICの改善を重視しすぎると、長期的な成長投資が犠牲になるリスクがあり、この点のバランスを取ることが課題となっています。
(2)社内での理解と定着
ROICの概念は日本では比較的新しいため、全社的な理解と浸透が課題となっています。特に、中小企業では財務指標に関する知識が限られている場合も多く、ROICの導入に時間がかかる傾向にあります。また、部門ごとのKPIとしての採用には、社内教育や認識の共有が必要です。
執筆陣紹介
- 仰星コンサルティング株式会社
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