令和4年度・過労死等の労災補償状況について
~請求の約8割が「精神障害」に関するもの~

2023年7月27日
令和4年度・過労死等の労災補償状況について~請求の約8割が「精神障害」に関するもの~

【5分で納得コラム】今回のテーマは「令和4年度・過労死等の労災補償状況について」です。

令和4年度・過労死等の労災補償状況 精神障害に関するものが約8割

1. 過労死等の労災請求件数

2023年6月に厚生労働省から公表された「令和4年度・過労死等の労災補償状況」によると、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害に関する労災請求件数は、令和4年度は3,486件で、前年度から387件増加しています。その内訳は、脳・心臓疾患に関するものが803件、精神障害に関するものが2,683件で、8割近くが精神障害に関するものになっています。

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過去の公表資料によれば、過去10年間の請求件数は下のグラフのとおりで、脳・心臓疾患に関するものは横ばいであるものの、精神障害に関するものは2倍近くに増加している状況にあります。

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また、さらに遡って20年前の平成14年度の請求件数をみると、脳・心臓疾患に関するものは819件と令和4年度と同程度であるのに対し、精神障害に関するものは341件で8分の1程度であり、精神障害に関するものがこの20年間で大幅に増加していることがわかります。

2. 過労死等の労災支給決定件数

過労死等に関する労災の支給決定件数は、令和4年度は904件で、前年度から103件増加しています。その内訳は、脳・心臓疾患に関するものが194件、精神障害に関するものが710件で、請求件数と同様に、8割近くが精神障害に関するものになっています。

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精神障害に関する労災の支給決定件数710件について、精神障害の発病に関与したと考えられる事象を分類した「具体的な出来事※」をみると、上位10項目は下表のとおりとなっており、最も多い具体的な出来事は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(147件)になっています。なお、当該項目は令和2年度から新たに追加されたものですが、令和2年度以降、常に最多の項目になっています。

※「具体的な出来事」は、平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に定められた区分によるものです。

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3. 精神障害の労災認定基準の見直し

精神障害の労災認定は、2011年(平成 23年)に策定された認定基準に基づいてなされていますが、近年の社会情勢の変化等を踏まえて、精神障害事案の審査をより適切・迅速に行うため、具体的な出来事にカスタマーハラスメントなどを追加したり、精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直すなど、現在、その見直しに向けた準備が進められています。

■「『精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会』報告書の概要」(厚生労働省)より

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認定基準の見直しにより、精神障害の労災請求件数等は今後さらに増えることが見込まれますが、認定基準で示されている具体的な出来事の内容も確認した上で、各社で必要な対応を検討し、精神障害が生じにくい体制の構築が求められます。特に、パワーハラスメントについては、大企業については2020年(令和元年)6月1日から、中小企業については2022年(令和3年)4月1日からそれを防止する措置を講ずることが義務付けられていますので、確実な取組みが必要です。

執筆陣紹介

岩楯めぐみ(特定社会保険労務士)

食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー等の人事労務全般の支援を行う。執筆は「テレワーク・フリーランスの労務・業務管理Q&A」 (共著/民事法研究会/2022)、「実務Q&Aシリーズ 退職・再雇用・定年延長(共著/労務行政研究所/2021)、「判例解釈でひもとく働き方改革関連法と企業対応策」(共著/清文社/2021) など。

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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