新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種に関連する税務上の取扱い

2021年8月11日
新型コロナウイルスのワクチン接種

国税庁は、令和3年7月2日に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を更新しました。
このFAQでは、国税庁における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応や当面の申告や納税などに関して寄せられた質問等が取りまとめられています。
今回、追加で「ワクチンの職域接種」に関連する税務上の取扱いについて示されていますので、その概要をご説明します。

1. 企業が負担した職域接種の会場準備費用に関する法人税と所得税の取扱い

職域接種の実施にあたっては、ワクチン接種事業の実施主体である市町村から委託を受け、接種1回当たり2,070円(税抜き)を基本として市町村から委託料を受領することとなりますが、接種会場の使用料、接種会場の設営費用(備品のリース費用を含みます。)、診療所の産業医以外の医師・看護師等の派遣を受けるための費用など、接種会場の準備のために要する費用(以下「会場準備費用」といいます。)が生じます。

では、この会場準備費用について、企業側及び接種を受けた者側それぞれについて、税務上どのような取扱いになるのでしょうか。

企業が負担した職域接種の会場準備費用
(項目) (取扱い) (考え方)
【法人税】
ワクチンの職域接種に係る会場準備費用の負担を、関連会社や取引先に求めない場合の取扱い(コロナFAQ問3-2)

《論点》
企業の費用負担額は法人税法上の「寄附金の額」又は「交際費等の額」に該当するか?
法人税法上の「寄附金の額」又は「交際費等の額」のいずれにも該当しないと考えられます。
なお、職域接種の対象に、接種会場の近隣住民で希望する者を追加する場合であっても、取扱いが変わるものではありません。
企業の費用負担は、企業の従業員等のほか、関連会社及び取引先の従業員等もワクチン接種を受けることで社内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大が防止され、企業の今後の業務遂行上の著しい支障の発生防止のため、つまり、企業の業務遂行に必要な費用の負担と考えられるためです。
【所得税】
ワクチンの職域接種により接種を受けた者の所得税の課税関係(コロナFAQ問9-6)

《論点》
所得税上、経済的利益の供与を受けたものとして、給与課税の対象になるか?
企業の役員及び従業員に対する給与として課税する必要はなく、また、これらの者以外の被接種者についても、所得税の課税対象とはなりません。 新型コロナワクチンの接種については、予防接種法の規定に基づき市町村(特別区を含みます。以下同様。)において実施するものとされており、被接種者が接種に要する費用を負担することはなく、被接種者において税負担が生ずることもありません。

※新型コロナワクチンの接種については、予防接種法の規定に基づき市町村(特別区を含みます。以下同じです。)において実施するものとされており、職域接種は、この市町村において実施するワクチン接種事業について、以下の形態とされています。
これら①又は②の形態いずれの場合であっても、上表の取り扱いは同様です。

  • ①市町村から委託を受けた企業等が実施する形態(企業内診療所において実施)
  • ②市町村から委託を受けた外部の医療機関に企業等が依頼することにより実施する形態(外部の医療機関が企業等に出張して実施するなど)

①の場合、市町村において実施するワクチン接種事業に係る業務(以下「受託業務」といいます。)の委託を受け、その委託の対価(2,070円(税抜き)×接種実施回数)を得ることとなります。会場準備費用を含む受託業務の実施に必要な費用が委託の対価を上回る場合には、企業に費用負担が生じます。

②の場合、企業から依頼を受けた外部の医療機関が市町村と委託契約を締結し、委託の対価も医療機関に支払われることとなります。医療機関における受託業務の実施に必要な費用が委託の対価を上回るなどの場合においては、企業と医療機関の契約内容により、企業に会場準備費用などの負担が生ずる可能性があります。

2. その他ワクチンの職域接種に関連する所得税に関する取扱い

接種会場までの交通費の取扱い
(項目) (取扱い) (考え方)
【所得税】
企業の役員及び従業員の勤務先又は自宅から接種会場までの交通費を企業が支給する場合、この交通費は非課税としてよいか否か(コロナFAQ問9-7)
接種会場への交通費として相当な額であれば非課税として差し支えありません(所得税法9条1項4号)。 企業の役員及び従業員の接種会場までの交通費については、職務命令に基づき出張する場合の「旅費」と同等と考えられるためです。
デジタルワクチン接種証明書の取得費用の取扱い
(項目) (取扱い) (考え方)
【所得税】
デジタルワクチン接種証明書の取得費用を企業が負担した場合、その取得費用は役員及び従業員に対する給与に該当するか否か(コロナFAQ問9-8)
企業の役員及び従業員がデジタルワクチン接種証明書を受けることが、企業の業務遂行上必要であると認められる場合、その取得費用の負担は役員及び従業員に対する給与に該当しません。 その費用は企業の業務遂行上必要な費用であり、役員及び従業員が負担すべき費用には該当しないためです。

参考:
コロナFAQ:「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」

5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係

<法人税に関する取扱い>
問3-2.ワクチンの職域接種に係る会場準備費用の負担を求めない場合の取扱い〔7月2日追加〕

<所得税に関する取扱い>
(各種所得の区分と計算)
問9-6.ワクチンの職域接種により接種を受けた者の所得税の課税関係〔7月2日追加〕
問9-7.ワクチンの職域接種に係る接種会場までの交通費の取扱い〔7月2日追加〕
問9-8.ワクチンの職域接種に係るデジタルワクチン接種証明書の取得費用の取扱い〔7月2日追加〕

執筆陣紹介

仰星監査法人

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