令和3年3月期の決算留意事項(「会計上の見積り」と新型コロナウイルス感染症の影響)②

2021年5月12日
決算イメージ

今回は、「会計上の見積り」における新型コロナウイルス感染症の影響について、開示の観点で決算上のポイントをご説明いたします。

2020年3月31日に、企業会計基準委員会から企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が公表され、3月決算企業では2021年3月期の年度末から適用されます。

開示上、2020年3月期決算においては、新型コロナウイルス感染症の影響は第429回企業会計基準委員会の議事概要を踏まえて、追加情報として開示する場合がありました。

では、見積開示会計基準の適用後、どのような考え方で開示を検討するのでしょうか。また、記述情報上、注記との関係でどのような点に留意が必要でしょうか。

1. 注記事項 ~「会計上の⾒積りに関する注記」と「追加情報」~

「会計上の見積り」における新型コロナウイルス感染症の影響の開示上の取扱いについては、第451回企業会計基準委員会の議事概要(2021年2月10日)において、これまでに公表した議事概要を更新する形で考え方が示されています。

当該考え方を図表に示すと、「表1」のようになります。翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目の場合、「表2」のように「会計上の見積りに関する注記」の開示が必要です。

表1 注記項目の判断フロー

新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定
翌年度の財務諸表に重要(*)な影響を及ぼすリスク
*以下を総合的に勘案
  • 影響の金額的な大きさ
  • 発生可能性
あり 会計上の見積りに関する注記(→「表2」参照)
なし 追加情報の注記
(財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示するケースがある)

表2 「会計上の見積りに関する注記」に係る開示項目

(見積開示会計基準6~8項、連規13の2、財規8の2の2、計規102の3の2)

開示項目 (1) 識別した項目名
(2) 当年度の財務諸表に計上した金額
(3) 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
例示
(a) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(b) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定(収束時期等)
(c) 翌年度の財務諸表に与える影響

(第429 回企業会計基準委員会の議事概要より抜粋、一部編集)

(前略)
(4) 最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる。

<企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を適用した後の取扱い>

(第451 回企業会計基準委員会の議事概要より抜粋、一部編集)

(前略)
(2) 企業会計基準第31号は、重要な会計上の見積りとして識別した項目(※)について、当年度の財務諸表に計上した金額、及び会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を開示することとしている。後者には、例えば、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、及び翌年度の財務諸表に与える影響が含まれる。
したがって、第429 回企業会計基準委員会の議事概要及び第432 回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、(4)において重要性がある場合に追加情報としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、企業会計基準第31 号で求められる開示に含まれることが多いと想定され、前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定される。

なお、企業会計基準第31号に基づく開示において、第429 回企業会計基準委員会の議事概要及び第432 回企業会計基準委員会の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられる。

(3) 新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示しているケースが見られる。企業会計基準第31号に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、企業会計基準第31号により求められる開示には含まれないが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられる。

(※)見積開示会計基準では、以下のとおりとされています(見積開示会計基準 5項)。
会計上の見積りの開示を行うにあたり、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別する。識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債である。また、翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断する。

見積開示会計基準では、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものに着目して開示する項目を識別することとされています。

このため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある点に留意が必要です(見積開示会計基準 23項)。

なお、会社計算規則も改正されているため、「会計上の見積りに関する注記」は、有価証券報告書に記載する財務諸表だけでなく、会計監査人設置会社の場合、会社法上の計算書類においても開示が求められます。経団連から2021年3月9日に「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)が5年ぶりに公表されていますので、開示の検討時に参考となります。

2.記述情報 ~財務情報(「会計上の見積りに関する注記」等)との関係~

記述情報についても、以下のように、MD&Aにおいて重要な会計上の見積りの開示が求められています。

(金融庁「記述情報の開示に関する原則」を元に筆者作成)

重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
〔法令上記載が求められている事項〕 財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、特に重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、会計方針を補足する情報を記載することが求められている。
考え方 ● 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、それらと実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクがある。会計基準における見積り要素の増大が指摘される中、企業の業績に予期せぬ影響が発生することを減らすため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、充実した開示が行われることが求められる。
● 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定に関して、経営者がどのような前提を置いているかということは、経営判断に直結する事柄と考えられるため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、経営者が関与して開示することが重要と考えられる。

開示府令では、MD&Aに記載すべき事項の全部又は一部を財務諸表等の注記に記載した場合、MD&Aにその旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することできるとされています。

このとき、財務諸表等の注記に重要な会計上の見積りに関する記載がある場合でも、開示府令が求めている事項に関する記載がない場合、財務諸表等の注記に記載されていない内容についてはMD&Aへの記載が必要となる点に留意が必要です。

たとえばMD&Aに一般的な事項のみ記載し、詳細については財務情報を参照とし、参照先でも法令で求められている内容を読み取ることが出来ない状態にならないよう留意が必要です。

<記述の不足の例>

・「会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、特に重要なものが何であるか」が分からない。

・「見積り及び仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響」が分からない。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響に関して、「追加情報」や他の注記において具体的に記載しきれない場合には、その補足として、MD&Aの「会計上の見積り」においても記載することが重要と考えられるとされています(Q&A Q6「会計上の見積りの記載内容」)。

参考基準等:

・遡及会計基準:企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」

・見積開示会計基準:企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」

・連規:連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則

・財規:財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

・計規:会社計算規則

・Q&A:金融庁「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」(2020年5月29日)

・日本公認会計士協会主催研修会「2021年3月期決算直前セミナー ~会計上の見積りの開示~(その1)」及び「2021年3月期決算直前セミナー ~記述情報の開示の充実に向けた取組~(その2)」

・日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その7)」(2021年3月2日)

以上

執筆陣紹介

仰星監査法人

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※本コラムに記載された内容は執筆者個人の見解であり、株式会社クレオの公式見解を示すものではありません。

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